インタビュー
» 2013年12月02日 11時00分 UPDATE

NIDays 2013:「本質に基づいてモノを作る」――日産GT-Rの開発者が語る、モノづくりにおけるシステム計測の役割 (1/4)

2007年に発売されて以来、世界中で圧倒的な人気を誇る日産自動車のスポーツカー「GT-R」。開発チームを指揮した水野和敏氏は、GT-Rについて「物事の本質に立ち戻り、それに基づいて開発しただけ」と言い切る。そして、物事の本質を“翻訳”してくれたのが、システム計測で取得したデータの数々だった。水野氏と、計測プラットフォームを提供する日本ナショナルインスツルメンツの池田亮太氏が、システム計測がモノづくりにもたらすメリットについて語った。

[村尾麻悠子,EE Times Japan]

 2007年、わずか3年の開発期間を経て登場した日産自動車のスポーツカー「GT-R」。0-100km/h加速は3.5秒、最高速度310km/hを記録し、世界の度肝を抜いた。

 このGT-Rの開発チームを率いたのが、水野和敏氏だ。当時、日産はカーレースで負け続けていた。そこで、カルロス・ゴーン社長自ら、「勝てるスポーツカーを作れ」と、水野氏を開発チームの総責任者に任命したのだ。開発期間、費用、チームの規模はいずれも従来を大幅に下回り、さらに経験の浅いエンジニアも多くいた。それでも水野氏は、「物事の本質に立ち戻って開発したから、簡単だった」と言い切る。

そして、“本質に立ち戻る”ことを可能にしたのが、システム計測だった。

システム計測が果たした3つの役割

mm131202_nidays1.jpg 「NIDays 2013」の基調講演に登壇した水野和敏氏

 日本ナショナルインスツルメンツの開発者向けイベント「NIDays 2013」(2013年11月1日)の基調講演に登壇した水野氏は、ゴーン氏から辞令を受けて「真っ先にシステム計測器を開発した」という。

 「今の自動車業界は、エンジン、ボディ、サスペンション、ブレーキ、ミッションと部門が分かれていて、それぞれがそれぞれのパラメータで計測している。でもクルマというのは、クルマ全体で見なければ開発の失敗の原因は分からない。だから一度に250項目のデータを取れて、それらの結果をソフトウェアで統合して解析できる総合的なシステム計測器を開発したんです。これまで使ってきた計測器は一切使わない。部門ごとの仕事は全部やめろ、とチームに伝えました」(水野氏)。

 システム計測がGT-Rの開発チームにもたらしたものは、大きく3つあった。

 1つは「本質を見極める手段」だ。最近の自動車のエンジンは、800℃でガソリンが燃えるように作られている。だが、GT-Rの開発を進める中で、800℃ではなく1100〜1200℃でガソリンを燃やすと、エンジンの最大限のパワーを引き出せるということがデータから分かった。水野氏は、「GT-Rのエンジンというのは、これまで800℃でガソリンを燃やしていたのものを、1160℃で燃えるように作っただけ。本当にただそれだけなんです」と語る。1滴のガソリンを約1200℃で燃やせば、最大限のパワーが出る。これは誰にも変えられないガソリンの性質だ。このような、不変の性質をきちんと理解してモノを作ることが「本質に基づくモノづくり」だと、水野氏は強調する。

 2つ目が人材の育成だ。3年間の開発期間の中、水野氏は最初の1.5年を“失敗する試作車”をわざと作らせることに費やした。経験の浅いエンジニアを育てるためだ。エンジニアたちが試作車の製作で失敗を繰り返す中、水野氏は計測で集録したデータを見せて丹念に説明し、狙った性能が出ない原因をチームに探らせていった。「人材の育成に必要なのは、失敗を肥やしに変えてあげること。その手段がシステム計測だった」(水野氏)。

 3つ目はチームのマネジメントだ。例えば1本の車速線を取る。横軸に時間、縦軸に車速を取ったグラフだ。このグラフを、エンジン、ミッション、サスペンションなどそれぞれの部位の担当者が共有することで、課題と解決策の両方が一挙に見えてくるという。水野氏は、「これまでミッションが原因だと思っていたものが、実はエンジンに問題がある場合もある。こういうことは、エンジン屋とミッション屋が別々に仕事をしていたら絶対に分からない。クルマを1つのシステムとしてとらえ、統合した計測データをそれぞれの専門家がデータを共有することで、クモの巣がほどけるように何でも分かってくるし、“次はこうすればいい”という、チームの開発目標の設定まで自然にできる」と述べる。

 日本ナショナルインスツルメンツは、まさにシステムの計測/制御向けにソフトウェア/ハードウェアで構成される計測プラットフォームを提供するメーカーだ。同社のプラットフォームは、グラフィカルなシステム開発ソフトウェア「LabVIEW」を中核として、モジュール式の計測/制御用ハードウェアを組み合わせる。目的に合わせてハードウェアを変更しても、全てLabVIEWでプログラミングできるのが最大の特長だ。

mm131202_nidays5.jpg 日本ナショナルインスツルメンツの、「LabVIEW」を中核とする計測/制御プラットフォーム

 同社で代表取締役を務める池田亮太氏と水野氏が、“人間の本質”に基づくモノづくりと、それを支えるシステム計測について語り合った。

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