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電子部品から医療まで幅広い応用が期待される「カーボンナノホーン」をNECが拡販材料技術(3/3 ページ)

» 2013年12月03日 12時20分 公開
[竹本達哉,EE Times Japan]
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幅広い応用範囲

 これらの特性から、さまざまな応用が想定される。

 電子デバイス分野では、電気を通しやすく、かつ、表面積が大きいため、電気二重層キャパシタなどの電極の表面に適用することで、充放電特性や容量を高めることができる。また、ウニのような形状のため、物質を均一なまま吸着、保持できることを利用し、燃料電池の触媒電極に使われるプラチナ粒子をカーボンナノホーンを使って保持すれば、よりプラチナ粒子の重さ当たりの表面積を増やすことが可能。そのため、充放電特性を向上させることが可能な他、高価なプラチナの使用を抑制できるといった効果も期待できる。

カーボンナノホーンの応用用途例 出典:NEC
カーボンナノホーンとカーボンナノチューブが混合したSEM像 出典:NEC

 さらに、カーボンナノチューブと組み合わせて使用すれば、さらに表面積を高め、バッテリ類の性能向上に貢献する。カーボンナノチューブは、束状に凝固する性質を持つが、カーボンナノホーンに絡めることで、凝固を防ぎ、細いままカーボンナノチューブを保持できる。そのため、カーボンナノホーン単独で使用するよりも、表面積をさらに増やすことができるとされる。

 電子デバイス領域以外にも、有害ガスを搬送する場合に使用するといったことも検討されている。メタン、フッ素などの有害ガスをカーボンナノホーン内に取り込めば、熱や圧力をかけない限り、空気中に放出されない。従来、有害ガスを搬送する場合、厚い金属の容器などで安全性を確保する必要性があったが、カーボンナノホーンに吸着させることで、より簡易的な容器での搬送が可能になり、搬送/保管コストなどを低減できる見込みだ。

 さらに、医療分野での応用への期待も大きい。

 有害性が低いため、治療薬をカーボンナノホーンに含ませ、より病原体に近い場所で、治療薬を投与するといった使用も可能で、既にマウス実験なども実施され、一定の効果が得られているという。

カーボンナノホーンを使ったマウスへの薬投与の実験も行われている (クリックで拡大) 出典:NEC

ナノカーボン素材の元祖

 これら優れた特長を持つカーボンナノホーンだが、生産、販売を手掛ける企業は、現在のところ、NECを除けば、存在しない。IT/コンピュータのイメージが強いNECがなぜ、カーボンナノホーンを生産しているのか。

 実は、NECは、カーボンナノ素材とはゆかりが深い企業だ。1991年に当時NEC基礎研究所の主任研究員を務めていた飯島澄男氏(現NEC中央研究所特別主席研究員)が世界で初めてカーボンナノチューブを発見しており、カーボンナノチューブの元祖ともいえる企業である。そして、カーボンナノホーンについても飯島氏らのグループにより、1998年によって発見された物質であり、以来、量産に向けた研究開発が進められてきたという経緯がある。2005年には、グラファイトにレーザーを照射する手法によるカーボンナノホーンの量産技術を確立。約7年の時間をかけて、一定の品質/純度レベルを確保、保証できる体制を整え、2013年になり、本格的な販売をスタートするに至った。

 現在、純度85〜95%の品質レベルで日産1kgの量産が可能な生産体制を構築しているという。また純度を100%にするため、不純物(凝固したグラファイト)とカーボンナノホーンを選別する技術も確立でき「コストは高いものの、医療分野などからの純度100%要求にも対応できる」とする。

特性が似た単層CNTより大幅に安い価格

 価格に関しては、受注を開始し量産装置の稼働率が低い現状でも、1g当たり数百円の価格で販売できるという。既に量産技術が確立され大規模量産が行われている多層カーボンナノチューブの価格は、1g当たり数十円であり、カーボンナノホーンは割高に思える。だが、特性面でカーボンナノホーンに匹敵する単層カーボンナノチューブについては、量産技術が確立されておらず、現状の製造コストは1g当たり数十万円といった水準が想定されるため、カーボンナノホーンはかなり割安感がある。

 「既に多層カーボンナノチューブが使用されている部分を、カーボンナノホーンに置き換える提案は、現状、難しい。特に、コストが優先されるデバイス分野では、厳しい。将来的に量産規模が、月産1トンなどの水準になれば、多層カーボンナノチューブよりも安い価格を実現できるだろうが、時間はかかる。そのため、ビジネスとしては、カーボンナノホーンの特性でこそ実現できる用途への提案を重視している。医療分野はカーボンナノホーンでこその分野であり、デバイス分野でも、これまでになかった急速充放電が行えるバッテリー向けといったような用途での採用を目指している」(NEC)という。

 本格的な提案活動を実施して、おおよそ1年程経過した現在、「バッテリーではない電子部品の特性を高める材料として採用を前提にした評価が進んでいるなど、2014年からは量産出荷が開始できる見込み。2015年辺りには、現行の生産能力でフル稼働できるレベルの受注を獲得したい」(NEC)とする。

 なお、生産能力の増強に関してNECでは、「大きな投資の必要もなく、短期間で対応することも可能だ。装置1台当たりの生産能力も、レーザーの出力を高めることで向上できる見込みで、大規模量産に向けた技術的課題はほぼない」としている。

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