インタビュー
» 2014年01月23日 08時00分 UPDATE

東京工業大学放射線総合センター准教授 實吉敬二氏:自動運転車はステレオカメラだけで実現できる――「アイサイト」開発者に聞く (2/2)

[竹本達哉,EE Times Japan]
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他のセンサーとの違い

EETJ 衝突防止システムのセンサーとしては、ミリ波レーダーやレーザーの応用も進んでいます。その中でステレオカメラはどのような役割を果たしていきますか。

實吉氏 ステレオカメラは、複数の立体物の大きさ、位置、速度を瞬時に検出できる。加えて、走行領域の境界となる側壁や路肩、白線、黄線などの路面のマークまで的確に検出できる。こういったセンサーは、他になく、唯一のセンサーだ。レーダーやレーザーは、物体までの距離を検出できるが、物体の境界は検出できない。

tt1401_ALT006.jpgtt1401_ALT007.jpg 右の写真は、左の写真の状況をステレオカメラで距離を認識し、映像化した視差画像。近い所を赤色、遠い所を青色で表現している。似たような輝度が連続する壁などの部分はあえて距離を算出せず黒く表示し、結果として物体の輪郭が分かる (クリックで拡大)

EETJ ただ、カメラの場合は夜間など暗い状況に弱いという欠点も指摘されます。

實吉氏 よく言われることだが、既に暗闇でも撮影できるイメージセンサー、カメラも開発されており、それらを使えば暗闇でもステレオカメラは機能する。今後、イメージセンサーはさらに進化するわけであり、将来的には必ず可能になる。そして、もう一点、付け加えたいことが、車は何も見えない暗闇で走る状況は考えにくいということ。必ずライトを点灯させるわけであり、暗闇で人は運転しない。

衝突自動回避技術と、自動運転技術は違う

EETJ 車の周囲監視センサーとしては、カメラとレーダー、レーザーの併用という考えを持つエンジニアも多くいますが、どのようにお考えですか。

實吉氏 将来的には、レーダーやレーザーは搭載せず、ステレオカメラだけで、周囲監視ができるようになると考えている。

EETJ アイサイトなどで衝突防止が実用化され、自動運転車の実用化に向けて期待が高まっています。

tt1401_ALT008.jpg 自動運転(操縦)、緊急ブレーキ、緊急転舵を実現するために必要な検出距離を走行速度に応じて示したグラフ (クリックで拡大)

實吉氏 衝突防止など衝突自動回避技術と、自動運転技術は違う技術だ。衝突回避は物理的なものであり、衝突さえ回避できれば乗り心地は二の次だ。一方で、自動運転は、乗り心地の良さが必要だ。

 衝突防止ブレーキであれば、急ブレーキで止まるため、目の前の近い距離を検出すればよい。しかし、乗り心地の良いブレーキのためには、200m先まで検出しなければならない。それほど自動運転の方が、技術的に数段難しい。

自動運転を夢見るより……

EETJ 自動運転の実現の見通しは。

實吉氏 われわれも自動運転に向けたステレオカメラの応用技術の開発を進めているが、技術的には難しい。ただ、日産などが掲げる2020年には、高速道路での使用に限定された自動運転システムが実用化されるだろう。

 自動運転を夢見るよりも、個人的には、今しばらくは、最後にはぶつからないでいてくれる車で、安心して運転を楽しむぐらいで良いのでは、と思っている。

 衝突防止の方法として、緊急ブレーキとは別に緊急転舵がある。時速50km超える領域では、ブレーキよりも転舵の方が有効な衝突防止方法であり、自動運転の前に実用化されるはずだ。緊急転舵の場合、障害物の端、境界を検出できるステレオカメラが不可欠であり、ステレオカメラが果たす役割は大きいだろう。

EETJ 開発されているステレオカメラの視差画像を見ると、移っている物体のエッジ(端)だけが表現されています。

實吉氏 ステレオカメラは、2つのカメラの画素で、輝度の同じ画素を探し出し、その画素の位置のズレから距離を割り出している。そのため同じようなパターンの画素が続く壁や空といったところの端、境界以外は検出しにくく、エラーを防ぐためにもあえて検出していない。端、境界さえ、検出できれば、物体との距離や大きさを検出できる。

EETJ ステレオカメラでも、写った画素全てに距離情報を持たせるSGM(Semi Gloal Matching)など高密度視差画像などもありますが。

實吉氏 全ての画素に情報があり、見た目にはきれいに見える。しかし、ステレオカメラの強みであるエッジの部分が、曖昧になり、木が太く認識されたり、人がつながってしまうたりし、エッジ情報が重要な緊急転舵に使えない。そして計算コストも膨大だ。

 ただ、より多い画素で距離、位置検出できることに越したことがないため、われわれも計算コストを抑えた高密度視差画像の生成法を開発している。

tt1401_ALT007.jpgtt1401_ALT009.jpg 上でも紹介した實吉氏らが開発する処理アルゴリズムでの視差画像(左)と、高密度視差画像の比較。高密度視差画像は、距離情報のない部分がほとんどないものの、物体の輪郭がぼやけている (クリックで拡大)

自動車以外でも活用へ

EETJ 今回、開発されているステレオカメラのアルゴリズムがアルテラ製FPGA向けのIPとして提供されることになりました。

實吉氏 自ら開発した技術が広く活用されることは、大変、うれしいことであり、さまざまな応用開発が進めば良いと考えている。まずは、車向けのアプリケーションでの応用が中心になるだろうが、将来的にはロボットでの応用を期待している。人は五感の中で目から最も多くの情報を取り込んでいるといわれる。ステレオカメラは、人の目の代わりになりうるセンサーであり、人と同様の動きができる“パーソナルロボット”の実現に、ステレオカメラが貢献できればと思っている。

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