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SiCには勝てる! 欧米も注目する“第3の次世代パワーデバイス”の国内開発プロジェクトが今春スタートパワー半導体 酸化ガリウム(1/2 ページ)

情報通信研究機構(NICT)は、2014年4月をメドに次世代パワーデバイス材料の1つである酸化ガリウムを使ったデバイスの実用化を目指した本格的な開発プロジェクトを発足させる。国内電機メーカーや材料メーカー、半導体製造装置メーカー、大学などと連携して2020年までに酸化ガリウムパワー半導体デバイスの実用化を目指す。

» 2014年02月27日 09時00分 公開
[竹本達哉EE Times Japan]

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 世界規模で省エネルギー化が望まれる中、電力損失を低減するため電力変換に用いられるパワー半導体のさらなる高効率化が進められている。その中で、物理的限界に達しつつある従来材料のシリコン(Si)に代わる、よりパワー半導体に向いた新材料を用いた“次世代パワー半導体”の開発が盛んになっている。

 その次世代パワー半導体の新材料としては、炭化ケイ素(シリコンカーバイト、SiC)と窒化ガリウム(ガリウムナイトライド、GaN)の2つが有名であり、近年、SiCによるMOSFET、GaNによるHEMTといったデバイスが実用化されてきた(関連記事:次世代パワー半導体「GaN」「SiC」が競演)。

勝るとも劣らない「酸化ガリウム」

 そんな中で、SiC、GaNに対し「勝るとも劣らない」という第3の次世代パワーデバイス「酸化ガリウム(Ga2O3)」の開発プロジェクトが2014年春に発足する見通しだ。

 情報通信研究機構(以下、NICT)は2014年2月26日に開いた理事長記者説明会で、酸化ガリウムを用いたパワーデバイスの開発プロジェクトを発足させ、2020年には酸化ガリウムによるデバイスの商用出荷を開始したいとの意向を明らかにした。

 10年、20年といった長い年月をかけて多くの企業、研究機関が研究開発を進め、ようやくSiC、GaNのパワーデバイスが実用化、普及段階に入りつつある中で、これから本格開発に着手する新たな次世代パワーデバイスは、普及する可能性があるのだろうか。

 開発を主導するNICTも、「SiC、GaNに比べて、後発だ」(理事長の坂内正夫氏)とSiC、GaNが先行していることを理解している。その上で、「酸化ガリウムは、(SiCやGaNと違い)ウエハー基板の製造方法がほぼシリコンと同等であり、コスト競争力がある。パワーデバイス材料としての性能を示すバンドギャップがSiC、GaNより高く、パワーデバイス材料として優れている」と、コスト競争力、性能の両面でSiC、GaNに対抗し得る点を強調する。

 酸化ガリウムは、液晶用トランジスタなどで使用されるIGZO(インジウム、ガリウム、亜鉛の酸化物)と同様の酸化物半導体の1つ。バンドギャップは、シリコンの1.1、SiC/GaNの3.3〜3.4に対し、4.7〜4.9と極めて高い。パワー半導体材料として向いていることを示す指数であるバリガー性能指数*)は、シリコン=1に対し、SiC=340、GaN=870に対し、酸化ガリウムは3444と圧倒的な値を持つ。

酸化ガリウムの特性 (クリックで拡大) 出典:情報通信研究機構

 パワー半導体材料として、理想的ともいえる酸化ガリウムは、古くから知られていたが、なぜかデバイス化に向けた開発が進んでこなかったという。その中で、NICT未来ICT研究所の東脇正高氏らが、タムラ製作所、光波といった企業と連携し、5年ほど前から開発に着手。タムラ製作所と光波により、シリコンウエハー基板製造方法と同じ融液成長法で4インチウエハーの酸化ガリウム基板製造に成功した他、同基板を用いてMOSFETの製造に成功する(関連記事:SiCやGaNよりもワイドギャップ! 酸化ガリウムMOSFETを開発)など基本的な技術を開発。「SiC、GaNが10〜20年というような時間で達成してきたことをわずか数年で実現できた」(坂内氏)と短期間に相次いだ開発成果を評価し、開発を加速させることを決定。2013年末には、主に酸化ガリウムによるパワーデバイスの開発を行う目的でグリーンICTデバイス先端開発センターを新設し、開発の中心的役割を担ってきた東脇氏がセンター長に就任した。

酸化ガリウムデバイス開発の背景と現状 (クリックで拡大) 出典:情報通信研究機構
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