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“水晶の専業メーカー”から“周波数の総合メーカー”へ進化日本電波工業 取締役 技術統括本部長 山本泰司氏

水晶振動子/発振器メーカーとして名高い日本電波工業は、製品展開の幅を大きく広げつつある。独自の加工、パッケージ技術を駆使した超小型水晶デバイスをはじめ、水晶を利用した各種センサーや、水晶に代わる高周波発振デバイスの開発、製品化に取り組む。「“水晶の専業メーカー”から“周波数の総合メーカー”へ脱皮を図りたい」という同社取締役 技術統括本部長 山本泰司氏に製品/技術開発戦略について聞いた。

» 2014年08月25日 10時00分 公開
[PR/EE Times]
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周波数の制御・選択・検出

――まず、昨今の事業戦略をお教えいただけますか。

山本氏 現在、持続的な事業成長の実現に向けて、“水晶の専業メーカー”から脱皮し、“周波数の制御・選択・検出の総合メーカー”を目指すという中長期的な事業方針を掲げています。技術/製品開発部門でも、“周波数の制御・選択・検出の総合メーカー”に向けた取り組みを加速させているところです。

――“周波数の制御・選択・検出の総合メーカー”を目指す背景は?

山本氏 当社は創業以来、周波数を制御する水晶振動子と水晶発振器が主力の水晶専業メーカーとして事業を展開してきました。けれど、水晶振動子/発振器の主力用途であるモバイル機器市場は、スマートフォンの登場により、大きく環境が変化しています。例えば、デジタルカメラはスマートフォンのカメラ機能に押されて需要が減少傾向にあります。一方で、スマートフォンの需要は伸び続けていますが、技術進化によりTCXOからサーミスタ内蔵水晶振動子への切換え、また、スマホ1台当たりに搭載される数、水晶デバイス員数が減少し、価格競争も激しくなっています。

 こうした水晶を取り巻く環境の変化から、当社も水晶デバイスの出荷数自体は、年率2桁の成長を遂げながらも、売り上げベースではほぼ横ばいにあります。

 こうした状況を打破するため、これまでの“周波数の制御”に加えて、SAWフィルタで一部をカバーしていた“周波数の選択”、さらには“周波数の検出”という「周波数」に関連するあらゆる分野にアプローチし、持続的で安定した成長を遂げていこうとしています。

より高付加価値製品に重点

――周波数の総合メーカーに向けた技術戦略を教えてください。

技術戦略の概要

山本氏 大きく分けて3つあります。1つは、インフラ系市場に向けた高性能製品の開発です。2つ目は、産業系市場に向けた「高付加価値Only1製品」の開発です。これは、周波数を検出することでいろいろな現象をセンシングしていくタイプの製品の開発が中心になります。

 そして3つ目は、量産系市場に向けた新製品開発です。量産系市場の環境は厳しいですが、他社との差別化を図った新製品を投入することで、売り上げ/利益の確保を目指します。

 全ての方針に共通するのは、より高付加価値製品に重点を置くということになります。

ワンランク上の精度を持つTCXO、OCXO

――インフラ系市場に向けた高性能製品とはどのようなものでしょうか。

山本氏 通信インフラなどの発振器はこれまで、精度面からTCXO(温度補償水晶発振器)やOCXO(恒温槽付水晶発振器)が使用され、さらにより高精度を求める場合は高価な原子発振器が使われてきました。

 当社では、このTCXO、OCXOの精度、温度安定性をそれぞれ高め、OCXOレベルの性能を持ったTCXO、原子発振器レベル性能のOCXOというように、それぞれワンランク上の発振器への進化を実現しました。

 この進化を実現したキーテクノロジーが「Twin技術」です。従来のOCXOは、温度変化をサーミスタで検出し、その情報を基に発振周波数を補正していました。これに対し、Twin技術は、温度特性の異なる2つの水晶振動子を使い、温度変化で生じる周波数差量から温度を割り出すという技術です。従来のサーミスタよりも高い精度で温度検出でき、TCXOでも、従来のOCXOでのみ実現できたppbレベルの安定度を実現することができました。

水晶/周波数でいろいろな事象をセンシング

――産業系市場に向けた「高付加価値Only1製品」とはどのようなものですか。

産業系市場に向けた「高付加価値Only1製品」の例

山本氏 水晶を使い温度を周波数として検出するTwin技術と同様に、さまざまな事象を周波数で検出するセンサーを中心に開発を進めています。

 その中でも、最も開発が進んでいるのが「バイオセンサー」です。水晶の表面に物質が付着すると発振周波数が変化するという仕組みを利用したセンサーで、10年ほど前から開発を進め、近年、医療分野や食品分野で事業が立ち上がってきました。2015年度以降に、インフルエンザウイルスを短時間で検出できるセンサーなども実現できる見通しです。

 バイオセンサー以外にも、水晶MEMS技術を使った超高精度の物理センサーや、化合物半導体であるガンダイオードによるミリ波センサーなどの開発も手掛けて、事業化を狙っています。

――最近は、より安価なシリコンデバイスやシリコンゲルマニウムデバイスを使ったミリ波発振器の開発も盛んですが、ガンダイオードを選択された理由は。

山本氏 多くのメーカーが集積化しやすいCMOSデバイスへ開発をシフトする中で、逆に小口用途に適したガンダイオードを扱うメーカーが減少しています。そうした理由から、ミリ波帯製品を開発するユーザー層からは、われわれのガンダイオード開発への期待度は高く、「早くサンプルがほしい」という要望をいただいています。新規開発製品の事業化には通常、時間がかかりますが、ミリ波ガンダイオード発振器については、早期のビジネス立ち上げを狙いたいです。

独自パッケージング技術で小型化、低背化をリード

――スマートフォンを中心とした量産系市場向けの製品としては、どのような技術、製品に重点を置いていますか。

山本氏 繰り返しになりますが、モバイル機器は、1つの周波数から複数の周波数を作るICの登場で、員数が減少しています。その一方では、ICに温度補償機能が搭載され、従来TCXOを要した用途で温度センサー内蔵水晶振動子が搭載され、需要増となっています。

 まず、われわれとしては、「サーミスタ内蔵水晶振動子」でより小型な1612サイズ品を開発し、スマホ向けでの需要増を取り込んでいく方針です。またこれから市場が立ち上がるスマートウオッチなどウェアラブル機器に対して、スマホ向けより一段小型化した1610サイズの音叉型水晶振動子を投入します。同様に、無線モジュール向けにも小型製品のラインアップを強化しています。

――モバイル機器を中心とした量産系市場は共通して小型化要求が強いですが、水晶デバイスの小型化は限界に近づきつつあるという指摘もあります。

山本氏 実際、旧来のセラミックパッケージ品では限界が近づきつつあるでしょう。今後、さらなる小型化を行うには、パッケージング技術の見直しが必要であり、既に着手しています。

 多くの水晶デバイスメーカーが取り組んでいるセラミックベースのシートを用いたシート工法によるCSP(チップサイズパッケージ)を当社も採用し、生産性を高めながら小型デバイスを製品化してきましたが、このCSPをさらに一段、進化させたウエハーレベルCSP(WL-CSP)の開発を進め、現在、実用化段階に移りつつあるところです。

――WL-CSPについて詳しくお教えください。

WL-CSP技術の概要

山本氏 WL-CSPは、従来のCSPと異なり、セラミックベースのシートを使わず、直接、水晶ウエハーに加工を行いダイシング(チップ切断)する工法を用い、パッケージとしてもセラミックを用いないため、極めて小型、低背化が実現できる技術です。水晶の一部がパッケージ表面に露出することになりますが、独自の水晶加工技術によって十分な信頼性を確保できています。

 既にSAWフィルタでWL-CSPを実用化し、1109サイズ(1.1×0.9mm)品の量産を行い、今年度(2014年度)からスマートフォンで0806サイズ(0.8×0.6mm)品の採用が本格化しつつあります。

 ご存じの通り、モバイル向けSAWフィルタ市場は、年15億台以上が生産されるスマホ/携帯電話機に必ず複数個搭載されるため大きな数量が見込める市場ですが、その分、競争も激しいです。われわれは後発となりますが、独自のWL-CSP技術による低背化では先行できており、それを武器に確実に市場への参入を果たしていきたいと考えています。

――水晶振動子へのWL-CSPの適用状況はいかがですか。

山本氏 一部2016サイズ(2.0×1.6mm)品で量産を開始した他、このほど1612サイズ(1.6×1.2mm)品の開発に成功し、間もなく量産に移行させたいと思っています。1612サイズ品の高さは0.3mmと非常に低く抑えることができています。まずは無線LANモジュールなどへの展開を図り、その後、スマホへの搭載を狙っていくことになるでしょう。研究開発レベルでは、既に1210サイズの実現も見えつつある状況で、量産系市場でも、WL-CSP技術を駆使し、付加価値の高い提案を行っていきます。

新技術開発はさらに加速する

――新しく、将来が楽しみな独自技術が多く生まれていますね。

山本氏 2013年後半から、“周波数の制御・選択・検出の総合メーカー”を目指すとの方針を打ち出すとともに、社内の研究開発体制の見直しも行いました。それまで、水晶発振子、水晶発振器、水晶フィルタなどの製品担当部門ごとに進めてきた縦割りの要素技術開発機能を1箇所に集める形に改めました。互いのノウハウを集約することで、さまざまな成果が早くも生まれており、今後、さらに新たな技術や製品が多く生まれてくると期待しています。


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提供:日本電波工業株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2014年9月30日

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