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ダイエットへの欲望は“種存続の危機”に勝るのか世界を「数字」で回してみよう(18)(7/8 ページ)

» 2015年08月24日 11時00分 公開
[江端智一EE Times Japan]

「種の保存」から「個の保存」へ

 かなり過激な仮説ではありますが、一応筋は通っていると思いました。しかし、それでも、納得できない部分があり、後輩に反論してみました。

江端:「しかしだな、それでは出産適齢期を過ぎた後に、ダイエットを試みる女性がたくさんいて、化粧や装飾を続けていることの、説明ができないぞ。男だってオシャレに興味がある人間はたくさんいるはずだ」

 利己的遺伝子論においては、種を残した後の個体は「何の価値もない」ただの肉塊であると考えます。実際、男女ともに、子どもを産みやすい時期を経過した途端に、性欲は弱まり、肥満になり、視力、聴力は劣化し、ガンなどの発病率もいきなり跳ね上がり、そして加齢臭が発生します(参考)。

 この利己的遺伝子のロジックを徹底すれば『役目(出産と育児)が終った後の個体は、とっとと死滅させて食いぶちを減らす』が最適戦略となります。 ―― ましてや、出産適齢期を過ぎた後に、ダイエット、化粧、装飾なんぞに、モチベーションを発生させるうような個体は、真っ先に抹殺しなければならないはずなのです。

後輩:「うーん。それは、つまり、『種の保存戦略』だけが、絶対ではないということですね」

江端:「いや、そんな、あっさりと言われても……」

後輩:「ところで、江端さん。今回の10kgのダイエットで、体が動くようになって、その後、気分はどう変わりましたか?」

江端:「え? 気分? 突然走っても腱を切ることもなくなったし、何十年ぶりかに「風を切る」という感覚も思い出したし ―― そうだなぁ、「楽しい」かな」

後輩:「それです。『楽しい』です。ダイエットは苦しいですが、その代わり快適な日々を送るためのカラダが提供されます。化粧をすることも、服を着ることも、結局のところ“楽しい”のです。そして、“楽しい”は、個体を健康な状態で長期間維持する(健康寿命)ために、もっとも有効な戦略であることは、よく知られていますよね」

江端:「それは、出産適齢期の後に、『種の保存戦略』が『個の保存戦略』に切り替わる、ということか?」

後輩:遺伝子は、矛盾した2つの保存戦略を同時に持っておく必要があったということなのでしょう。『種』なくして『個』はなく、『個』なくして『種』もないですから」

 その後も後輩との話は続き、「男性」の種の保存戦略と個の保存戦略について議論をしたのですが、結局、男性に使える武器は、どの場面においても「権力(金)」と「若さ」の2つしかないという、なんとも切ない結論に至ってしまいましたので、その内容の説明は、割愛させていただきたいと思います。

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