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酸化チタンを透明電極に用いた有機薄膜太陽電池建物の壁面や窓ガラスにも設置が可能に

東京大学の特任教授を務める松尾豊氏らの研究グループは、酸化チタンを透明電極に用いた有機薄膜太陽電池を開発した。少量のニオブを混ぜた酸化チタン薄膜とすることで、電子のみを選択的に捕集することに成功した。

» 2016年01月27日 11時30分 公開
[馬本隆綱EE Times Japan]

 東京大学の松尾豊特任教授や長谷川哲也教授、田日(ジョン イル)大学院生および、神奈川科学技術アカデミーの中尾祥一郎研究員らによる研究グループは2016年1月、酸化チタンを透明電極に用いた有機薄膜太陽電池を開発したことを発表した。少量のニオブを混ぜた酸化チタン薄膜とすることで、電子のみを選択的に捕集することに成功した。

 有機薄膜太陽電池の透明電極には、レアメタルであるインジウムを含む酸化インジウムスズが一般的に使われている。今回、研究グループでは、汎用的な材料である酸化チタンを透明電極として用いた。ニオブをドープした酸化チタン薄膜は、電気を流しやすく光も通しやすい特性があるからだ。

透明電極および有機薄膜太陽電池の外観。左上は酸化インジウムスズ電極、左下はニオブドープ酸化物電極、右はニオブドープ酸化チタンを用いた有機薄膜太陽電池 出典:東京大学

 研究グループでは、導電性のニオブドープ酸化チタンの表面に、UVオゾン法を用いて酸化処理を施した。この処理によって、ニオブドープ酸化チタン表面を酸化して、電子のみを選択的に捕集して流す透明電極を形成することに成功した。

有機薄膜太陽電池の構造比較。左が従来、右が今回開発した構造 出典:東京大学

 ニオブドープ酸化チタン薄膜におけるニオブ量は、光の透過量を増やすため通常より少ない2%(Ti0.98Nb0.02O2)とし、膜厚300nmでシート抵抗40Ω/sq以下になることを確認した。また、UVオゾンの処理時間を変えたニオブドープ酸化チタン透明電極を用い、いくつかの有機薄膜太陽電池を作製した。処理の条件が異なる有機薄膜太陽電池でエネルギー変換効率を評価したところ、処理時間が15分だと表面の半導体化が不十分となり、漏れ電流が検出された。処理時間が30分を超えると漏れ電流はなくなり、60分さらには90分と処理時間を延ばすことで、ニオブドープ酸化チタン薄膜の電荷を選択的に捕集する機能が高まり、より大きな電流が得られることが分かった。

左はニオブドープ酸化チタン薄膜とそのシート抵抗値、右は膜厚300nmにおける電流−電圧特性とUVオゾン処理時間の関係 出典:東京大学

 実験結果より、UVオゾン処理を90分行った場合に、エネルギー変換効率は最大で2.75%になることが分かった。高いエネルギー変換効率が得られた理由として、UVオゾン処理による表面酸化により、表面のエネルギー準位が大きくなり、有機発電層で生じた正孔がブロックされ、電子のみがニオブドープ酸化チタン電極に流れるようになったため、と分析している。

エネルギー準位図 出典:東京大学

 今回開発したニオブドープ酸化チタン電極は、単純にレアメタルの酸化インジウムスズ電極を代替するだけでなく、電子輸送層としての機能も兼ね備えることを明らかにした。今回開発した方法を用いると、有機薄膜太陽電池の多層構造を、より単純にすることが可能となり、有機薄膜太陽電池の作製工程を簡略化できる可能性も高いとみている。

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