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“バーチャル江端”3人衆、ダイエットに散る世界を「数字」で回してみよう ダイエット(27)(6/7 ページ)

» 2016年02月24日 11時30分 公開
[江端智一EE Times Japan]

【付録2】ファジィ推論に関する個人的な所感

 今回のように、ダイエットを実施する仮想人格(エージェント)を作らなければならないような時、私たちエンジニアはすぐに「人工知能」のようなものを考えしまいますが、これは早計だと思います。

 今回、私が作成した”バーチャル江端”エージェントは、プログラムに条件文(IF 〜 THEN 〜)を大量に埋め込みまくれば、簡単に完成します。別に難しく考える必要はなく、プログラミングの経験者であれば、誰だって作成できます。

 ところが、このような条件文を使ったエージェントには、面倒な問題が発生するのです。

 「論理矛盾」問題です。

 例えば、エージェントに以下のようなルールを設定したとします。

・【ルール1】正しいことにはYESと言い、誤ったことにはNOと言うこと

・【ルール2】上司の言うことには、なんでもYesということ

 この場合、「上司が誤ったことを言っている」場合には、このエージェントは、どのように反応すべきでしょうか?

 Yesでしょうか、Noでしょうか。

 一般の条件文を使ったプログラムでは、この2つのルールの両方を採用することはできません。一方のルールを採用したら、もう一方のルールを無視(スキップ)しなければ、エージェントプログラムは正常に動作することができないのです。

 ファジィ推論のすごいところは、この問題に対して「YesともNoともどちらとも取れる反応をすべきである」という答えを、論理的にかつ定量的に導き出すことができる点にあります。

 具体的には、「Yes:43%、No:57%の気持ちを込めた回答をしろ」というような答えを出せるのです。


 ファジィという概念は、 1965 年にアメリカのザデー (Zadeh) 教授にて提唱され、その後、イギリスのマムダニ (Mamdani) 教授によって実用的な方式として確立しました(私が今回のコラムで利用した手法は、マムダニ教授の方式をさら簡単にした、min-max簡略ファジィ推論法といわれるものです)。

 私がファジィ推論に熱中した理由の一つに、『極めて少ない』だの『2週間くらい』という言葉を、数式に置き換えるという、驚がく動転のパラダイムにありました(正直、最初は『めちゃくちゃだ』と思いました)。

 このファジィ推論が、アメリカでもなく、イギリスでもなく、1990年ごろの日本で大流行したのは、このファジィの概念をガッチリと受けとめる土壌が、わが国(日本)にはあったからだと考えています(欧米でファジィが流行ったという話を、私は聞いたことがありません)。

 わが国の国民は、「Yes:43%、No:57%の気持ちを込めた回答をしろ」というフレーズの意味を、(その実施は難しくとも)理解はできると思っています(そして、推測の粋を出ませんが、欧米の人には『何言っているかよく分からない』のじゃないかなぁとも思っています)。

 歴史を振り返ってみると、7世紀初頭に、聖徳太子が制定したとされている「十七条憲法」には、「一に曰(い)わく、和を以(も)って貴(とうと)しとなし、忤(さから)うこと無きを宗(むね)とせよ」との記載があります。

 このことからも明らかなように、わが国では「Yes/No型意思決定の否定」、すなわち「YesとNoの間に、無段階かつ無数の解がある」ことが是認され、現代に至るまで、日本人の問題解決手法の根幹を成しています(近年の国際化に伴い、いろいろと問題になっていますが)。

 ですから、ファジィの最初の提唱者は、ザデー教授ではなく、聖徳太子である ――と、言い張っても良いのではないかと、私は思うのです。

 ま、それはさておき。

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 ファジィは、現実に「使える」のです。

 私が、2015の大みそかに、実家で魚料理をしながらも、今回の”バーチャル江端”を作り上げることができたのは、その理論が明解で、そして実装が簡単だったからです。

 私が「サンマとサバを判別する」という超絶巧妙な判別アルゴリズムを具現化できた*)のも、ファジィのおかげです。

*)関連記事:「サンマとサバ」をファジィ推論で見分けよ! 史上最大のミッションに挑む

 さらにさかのぼれば、制御理論(PIDなど)を何一つ知らなかった一学生(私)が、教授の命を受けて、ある会社の自動製パン機の庫内の湿度/温度の制御プログラムをわずか1週間程度で完成できたのもファジィのおかげなのです。


 ファジィはとても便利な道具です。

 特に、今回のように、短時間で簡単な「なんちゃってエージェント」を作りたい場合や、多少ラフでもいいから、制御プログラムを大至急組まなければならない時などには、本当に「使えます」。

 もっとも、ファジィ以外にも、当時の少ないメモリ、非力なCPU、高価なハードディスクのリソースを限界まで使い切って、稼働し、そして今なお動き続けている、すごい技術は、まだまだたくさんあります。

 機会がありましたら、これらの技術について、これからも、いろいろと紹介させていただきたいと思っております。

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