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» 2016年03月14日 09時30分 UPDATE

近赤外レーザーを用いた、がん光熱療法に朗報:ナノコイル状の新素材、光照射で効率よく発熱

産業技術総合研究所(産総研)の丁武孝研究員らは、光照射で効率よく発熱するナノコイル状の新素材を開発した。近赤外レーザーを用いたがんの温熱療法(光熱療法)への応用などが期待される。

[馬本隆綱,EE Times Japan]

 産業技術総合研究所(産総研)機能化学研究部門 界面材料グループの丁武孝研究員と、ナノ材料研究部門 CNT機能制御グループの都英次郎主任研究員らは2016年3月、光照射で効率よく発熱するナノコイル状の新素材を開発したと発表した。近赤外レーザーを用いた、がんの温熱療法(光熱療法)への応用などが期待される。

 新たに開発した素材は、有機ナノチューブの表面に、ポリドーパミン(PDA)をコイル状に結合させている。このナノコイル複合体に近赤外レーザーを照射すると、高い効率で発熱するという。今回の研究では、培養したがん細胞に少量のナノコイル複合体を添加してレーザー照射したところ、6割以上のがん細胞が熱によって死滅することが分かった。

tm_160311aist01.jpg ナノコイル複合体によるがんの温熱療法(光熱療法)のイメージ (クリックで拡大) 出典:産業技術総合研究所

 光熱療法に用いる主な材料としてはこれまで、カーボンナノチューブや金ナノロッド、インドシアニングリーン、ポルフィリン誘導体、及びPDAなどが開発されている。この中で、PDAは生体適合性に優れ、量産も容易なことから、有力な材料として注目されてきた。しかし、他の材料に比べて光発熱効果が低いという課題もあった。

 そこで研究チームは、PDAの形状をこれまでの粒子状からコイル状に変更することで、光発熱効果を高めることにした。ところが、電荷を持たない有機ナノチューブにドーパミンを重合させても、コイル状のPDAは作成できなかった。今回は、負電荷を持つ分子をわずかに混入させた有機ナノチューブ(外径約190nm、内径約70nm、長さ800nm〜4μm)を鋳型として用いた。これにより、正電荷を帯びたドーパミンが、らせん状に局在化している負電荷に吸着しながら選択的に重合反応が進み、ナノコイル状PDAを作製することができた、とみている。

 研究チームは、ナノコイル状PDAの他、幅が約7.5nmのナノファイバー状PDA(外径約17nm、長さ3μmのナノチューブに内包されたもの)や、ナノ粒子状PDA(粒径約400nm)も同時に作製して、形状による特性比較の実験を行った。

tm_160314aist02.jpg ナノコイル状PDAとナノファイバー状PDA、ナノ粒子状PDAの電子顕微鏡像 (クリックで拡大) 出典:産業技術総合研究所

 実験では、各形状のPDAを含んだ水分散液0.3ml(PDA濃度:0.08wt%)に対し、波長が785nmの近赤外レーザーを10分間照射した。その結果、ナノコイル状PDAの分散液は、他の分散液に比べて、レーザー照射後に2倍以上の温度上昇が確認された。コイル形状がアンテナの役割を果たすことで、近赤外光を効果的に吸収し、発熱するためだという。さらに、開発したナノコイル状PDAを、培養したヒト子宮頸部がん細胞(HeLa)に添加し、近赤外レーザーを照射したところ、約65%のがん細胞が死滅した。

tm_160314aist03.jpg 形状の違いによるPDAの発熱作用(A図)と、培養がん細胞に対する死滅効果(B図) (クリックで拡大) 出典:産業技術総合研究所

 研究チームは今回の成果を踏まえ、光発熱効果の効率向上や各種のがん細胞に選択的に吸着させるための最適化に取り組むとともに、正常細胞への安全性評価などを行っていく。さらに、太陽電池などへの応用も検討していく予定である。

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