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シリコンを用いた高効率太陽電池、「限界」を突破するには高効率太陽電池(3/4 ページ)

» 2016年03月28日 11時30分 公開
[畑陽一郎EE Times Japan]

多接合技術が生きる

 このような基本的なアイデアに基づいた最初の太陽電池セルは1980年代に試作されている。だが、実際に高い効率の太陽電池セルを作り上げるには幾つかの課題を解決する必要があった。

 2種類の異なる半導体を薄膜として積層したとしよう。すると、熱膨張率や格子定数の不適合を考慮しなければならなくなる。例えば、GaInPとSiは熱膨張率が異なるため、原子を積層させた構造を作り込むと、実環境でひずみや剥離が起きる。さらに原子の直径が異なるため、品質の高い単結晶膜はできない*3)

 NRELとCSEMが選んだ手法は、メカニカルスタックだ。2種類の半導体を別々に最適な条件の下で製造し、機械的に貼り合わせた。

*3) 格子定数などが異なる場合、品質の高い大型セルを安価に製造することは極めて難しい。このため、小面積セルと集光技術と組み合わせる開発方針が適している。太陽光をレンズなどで集光させた場合の記録は、45.0%(4層構造)と高い。

なぜIII-V族とシリコンなのか

 米NRELに所属するDavid Young氏に、今回の開発ポイントを聞いた。同氏はMaterials Applications&Performance centerのthe High Efficiency Crystalline PV groupでシニアサイエンティストの地位にある。

EE Times Japan(EETJ) 今回採用したメカニカルスタック技術ではどのような半導体を組み合わせることも可能です。SiとGaInPという組み合わせを選択した理由は何でしょうか。Si層を使うと決めたとき、GaInPを対に選ぶと最も出力が高くなるのでしょうか。

David Young氏 太陽スペクトルの形状から、2種類の半導体のバンドギャップとして、トップ層に1.7電子ボルト(eV)、ボトム層に1.1eVを選んだときに出力が最大になると計算できます。GaInPのバンドギャップは1.8eV。大きなバンドギャップを持つ半導体としては最高効率が得られます*4)。Siは1.1eVなのでボトム層として適しています。さらに市場シェアが非常に高いこともSiを選んだ理由の1つです。以上の考察から、集光技術を使わない場合、Si層の上にIII-V族化合物半導体層を載せるというアイデアが生まれました。

*4) GaInP単層セルの変換効率の記録は20.8%。

EETJ 採用したメカニカルスタック技術の内容を教えてください。InGaP層とSi層の間の距離はどの程度でしょうか。

David Young氏 2つの層を透明なエポキシ接着剤で貼り合わせました。光損失をなるべく少なくするために上層の表面を反射防止膜で覆っています(ARC加工)。2つの層の間の距離は1mm未満です。

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