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高効率を求めるなら、迷わず「GaN」を選ぶ時代が到来もはや「次世代」ではなくなった!

GaNパワートランジスタの本格的な普及が始まった。長く実用化を阻んできた品質/信頼性面の課題がクリアされ、2015年から量産がスタートした。従来のシリコンパワートランジスタを大きく上回る高い変換効率を求め、サーバやエアコンの電源、太陽光発電パワーコンディショナーへの搭載が進んでいる。“次世代パワーデバイス”から“実用的な最新パワーデバイス”へと進化したGaNパワーデバイスを紹介していこう。

» 2016年04月04日 10時00分 公開
[PR/EE Times]
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 GaN(ガリウムナイトライド/窒化ガリウム)と言えば、SiC(シリコンカーバイド/炭化ケイ素)と並んで、“次世代パワー半導体材料”として大きな注目を集めてきた。これまでのパワー半導体材料であるSi(シリコン/ケイ素)よりも電気的、物理的特性に優れ、より大きな電力を、より小さなサイズで、より低損失に扱える理想的なパワー半導体を実現する材料であり、“いずれは、Siにとって代わる”と目されてきた。

GaNパワーデバイス(GaN-HEMT)の応用範囲。ACアダプターからパワーコンディショナー、サーバ/PC、さらには電気自動車などでの利用が見込まれている

 そして、いよいよ次世代パワー半導体が“Siにとって代わる時代”が到来した。GaNを用いたパワー半導体の商用量産が始まり、さまざまな機器に使われ始めている。もはやGaNパワーデバイスは“次世代パワーデバイス”ではなく“実用的な最新パワーデバイス”と呼ぶ方が相応な状況になっているのだ――。

Transphormが15年1月から6インチウエハーで本格量産

 2015年1月、Transphorm(トランスフォーム)が、6インチウエハー製造ラインでのGaNパワートランジスタ製品の製造を開始した。6インチウエハーは、Siパワートランジスタの量産でも広く使用されるウエハー口径であり、Si同様の本格量産がGaNでも、いよいよ始まったということを意味する。

TransphormのGaNデバイス製品の量産を手掛ける会津富士通セミコンダクターの工場

 Transphormは2007年に設立した世界で唯一ともいえるGaNパワーデバイス専門メーカーであり、2014年にはGaNトランジスタに用いられるHEMT(高移動度トランジスタ)構造の生みの親である富士通のGaNパワーデバイス事業と統合。両社の技術ノウハウを融合させ、会津富士通セミコンダクターの6インチウエハーラインでGaNパワートランジスタのいち早い本格量産に至った。

GaNの品質/信頼性問題をクリア

 本格量産に至った背景には、さまざまな要因があるが、もっとも大きな要因が、品質/信頼性の課題がクリアされたことにある。この品質/信頼性の課題は、GaNパワーデバイスが長く“次世代パワーデバイス”と呼ばれてきたゆえんでもある。性能、特性に関しては優れているものの、品質/信頼性面では、Siに及ばず、「まだまだ実用的でない」とされる状況が続いてきたのだ。

 例えば、GaNトランジスタがSiトランジスタに劣る要素の1つにゲート電極をオンにする電圧範囲が低く、狭いという点があった。

 GaNトランジスタに用いられるHEMT構造は基本的に、ゲート電極に負電圧を印加しなければオフにならない「ノーマリーオン動作」になる。そのため、万が一、ゲートに電圧を印加できなくなると、ゲートがオンして電流が流れる。大きな電力を扱うパワーデバイスの場合、そうした状況は大変危険であり、ゲートに電圧を印加せずにオフにできる「ノーマリーオフ動作」を実現する必要がある。そこで、ゲート電極構造に工夫を施し、ノーマリーオフ動作を実現するケースが多い。

 ただ、ノーマリーオフを実現するゲート構造を用いたGaNトランジスタのほとんどは、高電圧でスイッチングしているとオン抵抗が増大する上(後述の電流コラプス)、オンする際に高い電圧を掛けることができない。結果としてSiトランジスタでは5〜20V程度範囲を持つゲートオン電圧がGaNトランジスタでは、5〜10V、場合によれば5〜7Vといった狭い範囲に限定される。そのため、Siトランジスタでも用いたゲートドライバを活用できず特殊なゲート駆動制御が要求される。さらに、最大ゲート印加電圧が低くなるため、壊れるリスクも高くなるというデメリットもあった。

特殊なゲートドライブの必要なし

低電圧(LV)Si-MOSFETをカスコード接続し、ノーマリーオフ動作を実現

 これに対し、Transphormが量産を実施しているGaNトランジスタのゲートオン電圧範囲は、5〜18Vと、Siトランジスタとほぼ等しい広い範囲を持つ。これは、ノーマリーオン動作のGaNトランジスタに、ノーマリーオフ動作の低電圧Si-MOSFETをカスコード接続させて、GaNトランジスタとしてノーマリーオフ動作を実現したものだ。これにより、ゲートドライバは、従来通り、Siトランジスタを駆動するだけで済み、特殊なゲート駆動制御技術を必要としない。Si同様の安全性レベルを担保できるわけだ。

 もう1つGaNパワーデバイスの実用化を阻んできた大きな課題に、高電圧でスイッチングした場合に、オン抵抗が一時的に増大する「電流コラプス」がある。これは、Siウエハー上にGaNを成膜する際の欠陥などに起因する現象である。これに対しても、GaN成膜技術を蓄積してきたTransphormと富士通のノウハウを生かし、「競合の2倍の高電圧環境下でスイッチングを行っても電流コラプスの生じない技術を確立できている」とし、実用に問題ないレベルの品質を達成している」(Transphorm)という。

あらゆる電源で採用が進む

GaNトランジスタを搭載した「Enewell-SOL V1シリーズ」(定格容量4.5kW) 出典:安川電機

 GaN特有の課題をクリアし、いち早く6インチウエハーを用い、耐圧600Vを実現したTransphormのGaNパワートランジスタ製品は、サーバ機器電源や、太陽光発電用パワーコンディショナー、車載用充電器のDC-DC電源部、E級アンプなどで採用が進んでいる。

 例えば、安川電機の住宅用屋内設置型パワーコンディショナー「Enewell-SOL V1シリーズ」(定格容量4.5kW)のインバーター部にTransphormのGaNパワートランジスタが採用されている。

 パワーコンディショナーは、極めて高い変換効率が要求される領域の1つだ。同時に、住宅用、しかも屋内設置タイプの製品は、サイズの小型化ニーズも極めて強い。そうした高効率、小型の2つのニーズを同時実現するパワーデバイスとして、TransphormのGaNパワートランジスタが選ばれたのだ。

 Enewell-SOL V1シリーズは、GaNパワーデバイスの採用により、それまでの製品に比べ半分の設置面積を実現するなど大幅な小型化を実現。さらに、DC250V入力、AC200V出力で、最大98.2%の変換効率を実現している。

 「品質、信頼性の課題をクリアしたGaNパワーデバイスは、Siに比べ効率を高められ、その結果、放熱対策なども簡易で最終製品の小型化、低コスト化を実現する選択肢として、着実に受け入れられている」と手応えを語る。

開発を支援する充実の高効率デモボード群

 Transphormでは、GaNパワーデバイス採用拡大の動きに対応し、さまざまな用途を想定したデモボード(開発評価キット)のラインアップを拡充している。

 パワーコンディショナーなどインバーター向けデモボードでは、定格容量3kWまでのデモボードに加え、近く同3.5kW対応ボードを発売する。既に販売している3kW(1相インバータ)のデモボード「TDPV3000E0C1-KIT」は、フィルターなどを小型化しやすい100kHzでの高速スイッチングを行った場合でも常時98%以上、最大で99%に迫る変換効率を実現。効率重視で、スイッチング周波数を50kHzに抑えると、最大99%を超える極めて高い変換効率を誇る。

1相インバーター回路搭載3kWデモボード「TDPV3000E0C1-KIT」

 従来のSi-IGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)では、効率を追求した場合、スイッチング周波数を20kHz程度にまで落とさざるを得ず、周辺部品の大型化、高コスト化を招いていた。高速スイッチングでも高い効率を誇るGaNパワーデバイスを採用することで、小型化、低コストも同時に達成できるのだ。

GaNのための回路“ブリッジレスPFC”のデモボードも

 GaNパワーデバイスの利点を生かし、Siパワーデバイスでは実現不可能な回路のデモボードもラインアップしている。

 PFC(力率改善)回路では近年、整流ブリッジのダイオードで生じる損失が効率改善の足かせとなり、問題視されている。しかし、逆回復時間が長く、逆回復電流が多く流れてしまうSiパワーデバイスでは、ブリッジダイオードを取り除くことは不可能に近い。一方で、GaNパワーデバイスの逆回復時間はSiの100分の1と極めて短く、ブリッジダイオードを取り除いた「ブリッジレスPFC」が実現できるのだ。

Si-MOSFET(Qrr=1000nC, 100A/マイクロ秒)【=左】とGaN-HEMT(40nC, 450A/マイクロ秒)【=右】での逆回復時間/電流の比較グラフ (クリックで拡大)
トーテムポール型PFCのデモボード「TDPS2400E2C1-KIT」(2.4kW)

 Transphormでは、ブリッジレスPFCの一種であるトーテムポール型PFCのデモボード「TDPS2400E2C1-KIT」(2.4kW)を用意している。トーテムポール型PFC回路は、2つのGaNトランジスタを使用することで実現できる極めてシンプルな回路。ブリッジダイオードの順方向損失がない状況で、GaNパワーデバイスの高速/低損失特性がフルに生かせる“GaNだからこその回路”だ。これまで整流ブリッジを使用したPFC回路の変換効率は、最大でもせいぜい96%程度までにとどまっていたが、TDPS2400E2C1-KITでは、 100kHz動作で最大98.8%という圧倒的な変換効率の向上が、シンプルな回路構成で実現できてしまうのだ。

 なお、トーテムポール型PFC回路は、スイッチングノイズ(伝導ノイズ)が大きくなるという欠点があり、フィルター設計にノウハウが必要となるが「デモボードとともに提供する回路情報をベースに開発することで、比較的容易に開発できる。近く、フィルター性能を高めたデモボードも発売する。充実した国内サポート体制もあり、ブリッジレスPFC導入を支援していく」(Transphorm)。

大容量品、パッケージ種も続々

 GaNパワーデバイスへのニーズが急速に高まるインバーターやブリッジレスPFCなど150Wクラス以上の電源回路に向けてTransphormは製品ラインアップを拡充している。現状、定格電流9A品、17A品、36A品(全て耐圧600V)を量産中で、それぞれTO-220、PQFN88の2種のパッケージ品を用意。36A品については、よりオン抵抗を軽減したTO-247パッケージ品もそろえている。

パッケージラインアップ

 このラインアップに、2016年4月には21A品が追加されるほか、大電流対応品の開発も実施し、2016年内には40Aを超える大電流に対応するGaNパワートランジスタの提供をスタートさせる予定だ。さらに、現在、カスタム対応している複数のGaNパワートランジスタやコントローラーを搭載したパワーモジュールの汎用品展開も計画している。

いよいよ自動車に搭載へ

 そして、2016年度中には、36A品などで自動車向け品質管理規格「AEC-Q101」を取得する見込みで、いよいよ車載品質をもクリアする見通しだ。

 「多くの自動車メーカーで、電気自動車(EV)のバッテリーチャージャー部の電源回路に、GaNパワーデバイスを搭載する方向で開発が進められている。2016年中に、車載品質対応を済ませることで、2018年の市販車から、GaNパワートランジスタが搭載されることになるだろう」(Transphorm)。エアコンから、サーバ、産業機器、そして自動車へ――。GaNパワーデバイスの本格普及は既に始まっている。

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提供:トランスフォーム・ジャパン株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2016年5月3日

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