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» 2016年05月12日 10時30分 UPDATE

省電力デバイスへの応用期待:低閾値電圧の有機Trを実現する化合物を安定合成

東京工業大学は2016年5月、閾(しきい)値電圧の低い有機トランジスタ(Tr)として機能する化合物を安定的に合成する手法を開発した。

[竹本達哉,EE Times Japan]

 東京工業大学の研究グループ*)は2016年5月10日、しきい値電圧の低い有機トランジスタとして機能する複素環化合物を安定的に合成する手法を開発したと発表した。同化合物を用いた省電力デバイスの実現などが期待できる。

*)東京工業大学物質理工学院応用化学系の伊藤繁和准教授、植田恭弘大学院生、三上幸一教授のグループ

 2つのラジカルを含む複素環化合物(1,3-ジホスファシクロブタン-2,4-ジイル)は、開殻一重項複素環化合物とも呼ばれ、p型半導体としての性質を示す。研究チームでは、以前から同化合物がしきい値電圧の低い電界効果トランジスタとして機能することを見いだしていた。

開殻一重項複素環化合物の構造式と写真 出典:東京工業大学

 この2つのラジカルを含む複素環化合物は、リン原子の効果によって2つのラジカル電子が反平行となった一重項状態にある物質である。こうした「結合の足りない」状態は「開殻一重項」と呼ばれ、極めて不安定であるのが普通だが、適切に置換基を配置することによって空気中でも扱えるようになる。

 ただこれまで、p型半導体として有用な複素環開殻一重項構造を活用できる化合物を安定して合成する手法がなかった。

 安定した化合物を得る方法としては、複素環開殻一重項分子のリン上に芳香族構造を導入して分子の特性を制御する方法がある。研究グループでも芳香族求核置換反応を用いた方法で、置換基を導入し安定合成することを見いだしていたが、導入可能な置換基が電子不足な芳香族置換基に限られ、p型半導体として使用できる化合物の安定合成までには至っていなかった。

高い求電子性を示す「ベンザイン」を活用

 導入できる置換基が電子不足な芳香族置換基に限られていた理由は、合成前駆体である複素環アニオン(陰イオン)の求核性が低いためだ。そこで複素環アニオンの求核性の低さを補うため、高い求電子性を示す物資を置換基に用いることを模索。研究グループは、高い求電子性を示す物資として、ベンゼンから2つの水素を取り去った「ベンザイン」に着目した。

 そこで、ベンザイン構造を持つ分子種であるアラインを、2-シリルトリフレートとフッ化物イオン試薬を用いて発生させる方法を構築。そして、リン複素環アニオンと反応させたところ、芳香族構造が効率よく導入され、リン複素環開殻一重項化合物を空気中で安定的な濃青色固体として得ることに成功した。

開殻一重項複素環化合物の合成スキームと合成した誘導体のX線構造 出典:東京工業大学

−4Vのしきい値電圧、フッ化水素で変色

フッ化水素(HF)の脱着による色調変化 出典:東京工業大学

 研究グループでは、得られたリン複素環開殻一重項化合物を用いて電界効果トランジスタを作成したところ、「しきい値電圧−4Vでp型半導体挙動を示した」という。また同化合物に、フッ化水素を付加すると色調が黄色に変化し、塩基を作用させればフッ化水素がはずれて元の濃青色に戻ることも確認したとする。

 東工大では、「今回開発したアラインを用いる開殻一重項複素環化合物の合成法を活用することで、より安定で性能の高い有機半導体やセンシング材料の開発につながると期待される」とコメントしている。

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