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MRAMの記憶素子「磁気トンネル接合」福田昭のストレージ通信(29) 次世代メモリ、STT-MRAMの基礎(7)(3/3 ページ)

» 2016年05月24日 11時30分 公開
[福田昭EE Times Japan]
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エネルギーバンドが電子スピンの違いで分裂

 ここで磁気トンネル接合(MTJ)素子に、自由層から固定層に向かって電流を流すことを考えよう。電子の流れは電流とは反対の方向、すなわち固定層から自由層の方向となる。

 自由層の磁化の向きによって抵抗値が違う現象は、エネルギーバンドによって説明される。強磁性体では常磁性体(通常の金属)とは異なり、電子スピンの違いによってエネルギーバンドが分裂する。

 エネルギーバンド図では例えば、上向きの電子の状態密度を左側、下向きの電子の状態密度を右側にレイアウトする。仮に上向きの電子の状態密度が多く、下向きの電子の状態密度が少なければ、全体としては上向きの電子で磁化された、上向きの磁気モーメントを持つ強磁性体となる。

 磁気トンネル接合(MTJ)を通過する電子は、スピンの状態を保持する。固定層の磁化が上記の仮定と同じ状態であるとしよう。電子の通過先である自由層の磁化が固定層の磁化と同じ(平行状態の)場合、自由層でも上向きの電子の状態密度が多数のエネルギーバンド状態である。従って固定層の多数の上向き電子が自由層の多数の上向き電子へと移動する。すなわち、電気抵抗値は低く抑えられる。

 これに対して自由層の磁化が固定層と反対向き(反平行状態)の場合、自由層では下向きの電子が多数を占める。上向きの電子の状態密度は少ない。しかし固定層で多数を占めるのは上向きの電子であるので、自由層に移動できる電子の数はわずか(主に下向き電子のみ)になってしまう。すなわち、電気抵抗値が高くなる。

トンネル接合電流をエネルギーバンドで説明した図面。絶縁層を挟んで左が固定層、右が自由層のエネルギーバンド。左側の図面は平行状態のエネルギーバンド。固定層と自由層でともに状態密度の多い上向き電子が主なトンネル電流となり、大きな電流が流れるので抵抗値が低い。右側の図面は反平行状態のエネルギーバンド。主にトンネル電流となるのは、固定層では少数の下向き電子である。このため電流はわずかしか流れず、抵抗値は高い(クリックで拡大) 出典:CNRS

次回に続く

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