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» 2016年05月31日 09時30分 UPDATE

福田昭のストレージ通信 次世代メモリ、STT-MRAMの基礎(9):電子スピンの注入による磁化反転の原理 (1/2)

磁気トンネル接合(MTJ)を利用したデータ書き込み原理の説明を続ける。今回は、電子スピンの注入によるデータ書き込み(磁化反転)の原理に触れる。

[福田昭,EE Times Japan]

磁界型MRAMからスピン注入型MRAMへ

 国際会議「IEDM」のショートコースでCNRS(フランス国立科学研究センター)のThibaut Devolder氏が、「Basics of STT-MRAM(STT-MRAMの基礎)」と題して講演した内容を紹介するシリーズの第9回である。

 前回は、磁気メモリ(MRAM)のデータ書き込み方法の1つである、外部磁界による書き込み手法とその限界を説明した。今回は、電子スピンの注入によるデータ書き込み(磁化反転)の原理を解説する。

講演のアウトラインを示すスライド。薄緑色でマーキングした部分が今回からのパート (クリックで拡大) 出典:CNRS

 電子スピンの注入によって磁化反転を起こすMRAM、すなわち「STT-MRAM」(スピン注入型MRAM)は、外部磁界によって磁化反転を起こすMRAM(磁界型MRAM)と比べて以下のような長所を備える。

  • ロジックCMOSプロセスと互換性がある
  • メモリセルのシリコン面積が小さくなる(3分の1〜4分の1)
  • 加工寸法の微細化を進められる
  • データの書き込みと読み出しが高速になる

 磁界型MRAMでは、磁界発生用のワード線と、MTJ素子と選択トランジスタを接続するためのバイパス線を付加している。このため、メモリセルのシリコン面積が大きくなる、ロジックCMOSプロセスとの互換性がない、微細化の限界がある、といった弱点を抱える。MRAMの将来を展望したときに、磁界型MRAMを高密度化することは原理的に非常に難しい。スピン注入型MRAMへの移行は必然といえる。

MRAMセルの構造図。左は磁界型MRAM。右はスピン注入型MRAM (クリックで拡大) 出典:CNRS

強磁性体に電子スピンを注入すると起こること

 電子スピンの注入による磁化反転を理解するには、強磁性体と電子スピンの交換相互作用を知っておく必要がある。

 上方向(垂直方向)に磁化された強磁性体に、磁気モーメントの向きがそろった電子を注入する(電流を流す)ことを考える。磁気モーメントは上向きだが、斜めに傾いている。つまり電子スピンによる磁気モーメントには垂直方向の成分と横方向の成分がある。

電子スピンと強磁性体の交換相互作用 (クリックで拡大) 出典:CNRS

 このような電子が強磁性体に突入すると、電子のスピンによる磁気モーメントと、強磁性体の磁化(磁気モーメント)の間で交換相互作用が起こり、電子のスピンによる磁気モーメントが垂直方向にそろえられる。強磁性体を通過して出てくる電子はすべて、上方向(垂直方向)の磁気モーメントを備えるようになる。交換相互作用の起こる距離は非常に短い。1nm程度である。

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