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磁場や電流印加に強く、さびない棒磁石を開発塗布型磁気記録材料やミリ波吸収材料として期待(1/2 ページ)

東京大学大学院理学系研究科の大越慎一教授らによる共同研究グループは、磁場に強く、電流も流れない、さびないフェライト棒磁石の開発に成功した。今回の研究成果を基に、磁気力顕微鏡プローブや高周波ミリ波吸収塗料を試作し、その効果を検証した。

» 2016年06月13日 09時30分 公開
[馬本隆綱EE Times Japan]

0.1〜1μmのε-Fe2O3棒磁石を合成

 東京大学大学院理学系研究科の大越慎一教授、筑波大学数理物質系の所裕子准教授、日立ハイテクサイエンスの山岡武博博士らの共同研究グループは2016年6月、磁場に強く、電流も流れない、錆びないフェライト棒磁石の開発に成功したと発表した。

 共同研究グループが開発したフェライト棒磁石は、強い外部磁界をかけてもその磁極が反転しにくいイプシロン型−酸化鉄(ε-Fe2O3)からなるサブミクロンサイズの単結晶フェライト棒磁石で、巨大な保磁力を有する。ε-Fe2O3は、塗布型磁気記録材料やミリ波吸収材料として、その応用が注目されている。

 共同研究グループは今回、0.1〜1μmサイズのロッド型ε-Fe2O3棒磁石を化学的に合成した。そのドメイン構造を原子間力顕微鏡(AFM)で観察したところ、単結晶の長手方向は820nm、高さと幅は120nmであった。同一領域を磁気力顕微鏡(MFM)で観察し、AFM像と重ねたところ、棒磁石の端にN極とS極が現れた。これにより、このε-Fe2O3棒磁石が、一対のN極とS極のみからなる単磁区構造を有していることが分かった。

サブミクロンサイズのε-Fe2O3結晶構造と、単磁区ハードフェライト棒磁石の顕微鏡像や特性 出典:東京大学

保持力は25.2kOe

 磁気を測定したところ、棒磁石の長手方向では保持力が25.2kOe(キロエルステッド)という数値を示した。25.2kOeという保磁力は、鉄と酸素のみからなるこれまでの磁石の中で、最も大きい数値だという。棒磁石の長手方向は結晶構造のa軸方向に相当する。磁極の方向が長手方向であるのは、ε-Fe2O3がa軸方向に巨大な磁気異方性を有することに起因するものであることが、今回の研究データから明らかとなった。

磁気力顕微鏡の原理と試作した磁気力顕微鏡プローブのイメージ図、及び観察した市販ハードディスクの磁気記録ビット 出典:東京大学

 共同研究グループは、開発したε-Fe2O3棒磁石を探針先端に固着して、磁気力顕微鏡プローブを試作した。この磁気力顕微鏡プローブを用いて、観察したコバルト磁性層からなる市販ハードディスクの磁気記録ビットを観察したところ、ビットパターンを観測することができたという。ε-Fe2O3磁気力顕微鏡プローブは、測定対象となる磁性体や外部磁場からの強い磁力線の影響を受けにくいのが特長の1つである。このため、測定が困難であった強力な磁石の表面や、強磁場下での磁性材料の測定を行うことが可能となる。

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