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» 2016年06月15日 11時30分 UPDATE

“異端児エンジニア”が仕掛けた社内改革、執念の180日(2):消えぬ“もやもや”、現場の本音はなぜ出ない? (2/4)

[世古雅人,EE Times Japan]

「顧客の要求を100%満たす」は正解なのか

画像はイメージです

 湘南エレクトロニクスの藤沢工場には、社員食堂とカフェがある。少し前までは、「安いけどまずい」という、いかにも典型的な工場の食堂だったため、利用者は少なかった。ところが、つい最近、食堂とカフェの運営を外部業者へ委託をしたことにより、メニューの品ぞろえ、味などずいぶんとサービスレベルが向上し、社員からの評判もなかなかのものになっていた。食堂について話題になることも多く、「もっと早くから外の業者を入れればよかった」という意見も聞かれた。中には、「ずっと殿様商売スタイルで、食堂を運営してきた自社が、外の業者とまともにやり合った結果、まるっきり歯が立たなかったのだろう」 「競争がないと思い上がるからね」などという意見もあり、須藤は「今のうちの会社そのものじゃないか」と思っていた。

 食堂の営業時間はお昼休みと定時後と時間が定まっているが、カフェは来客とのちょっとした打ち合わせでも利用できるように、営業時間は定時間内となっている。開発課のメンバーには、来客があると適当に言いつくろい、須藤は佐伯との待ち合わせ場所であるカフェに向かった。

佐伯:「やぁ、久しぶり。真面目に相談があるとか、何かあったのかい?」

須藤:「実は…(先日までの出来事を話す)」

佐伯:「なるほどね。同期にも相談したけど、まだ悩んでいる――と言うより、面白くないという顔をしているね」

須藤:「やっぱ、バレちゃいます?」

佐伯:「そりゃ、須藤さんほど分かりやすい人はいないよ。思ったことが口や態度にすぐ出ちゃうからね」

須藤:「はは……喜んでいいのやら……。ところで、僕ら開発の仕事って一体何ですかね? 前に佐伯さんが出した“製品戦略方針”には、製品のラインアップを見直して他社との差別化をはかっていく――と書かれていましたが、営業部は依然と変わらず、森田さんはまったく関心を持たないし、職場のメンバーもいわれるままです。差別化をはかるためには、付加価値が欠かせないですよね。僕はてっきり、開発のプラットフォームから見直し、新製品開発に取り組むのかと思っていました」

佐伯:「質問を質問で返して申し訳ないが、そもそも、価値とは何だと考えている?」

須藤:「お客さまから喜ばれる製品を世の中に出すことで、役に立つこと、感謝をされることかなぁ。そういう製品を作ることそのものが“価値をつくる”ってことかなと思いますけど……」

佐伯:「うんうん……いいね!では、価値は誰が決める? 価値が高い・低いは誰が判断する?」

須藤:「それはお客さまでしょう!」

佐伯:「その通り!」

須藤:「だとすると、営業部の山口さんが言っている“顧客要求を全て満たすものを作れ”ということは正しいということ? なんか、納得いかないなぁ……」

佐伯:「誰もそうだとは言ってないよ」

須藤:「え?」

佐伯:「お客さま自身が気づいていない価値というものもあるんだよ。決して、お客さまの言うことを100%信じて、お客さまが満足している製品を作っているなどと思ってほしくないな」

須藤:「だとすると、山口さんの言うことは間違っている?」

佐伯:「間違ってはいないし、営業の立場としては正論だ。ただし、それじゃあ、当社は客に言われるまま製品を作る会社になり下がってしまうし、君らエンジニアも面白くないだろう? 違うかい?」

 「そうだ……こういう話がしたかったんだ」――須藤は佐伯の話にうなずきながら、身を乗り出していった。

佐伯:「ちょっと、この図を見てごらん」

図1 モノづくりと価値づくり

 佐伯の説明はこうだ(参照)。

 この図は、現在、一橋大学イノベーション研究センターに所属する延岡健太郎教授の著書『価値づくり経営の論理(日本経済新聞社)』で示されているものだ。「顧客には付加価値を提供し、競合とは独自性で対抗する(=差別化を図る)」というもので、シンプルだが、モノづくり・価値づくりの本質を突いている。著書の中で、『社会的に価値のあるモノづくり=社会的な存在意義』と説いている。分かりやすくいえば、「その企業にしかできない、顧客に大きな価値がある、素晴らしいものづくり」ということを述べている。さらに、「横並びからの脱却:横並びこそが最大のリスク」と「真の顧客価値の創造:単に高い機能・仕様・品質ではない」に取り組んでいかなければならないと締めくくっている。

佐伯:「須藤さんはどう思う?」

須藤:「奥が深いですね。けど、言っていることはその通りだと思いますし、当社もこれからは、こういうモノづくりをしていかなければいけないと思ってます」

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