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» 2016年06月21日 11時30分 UPDATE

福田昭のストレージ通信 次世代メモリ、STT-MRAMの基礎(14):スピン注入型MRAMの不都合な真実 (1/2)

STT-MRAMの基礎を解説するシリーズ。最終回となる今回は、磁気トンネル接合(MTJ)を構成する固定層や磁性層に焦点を当てる。スピン注入型MRAMのMTJは、47層もの層で構成されている。これほどの層が必要なのにはきちんとした理由があるのだが、実は同時にそれがSTT-MRAMの弱点にもなっている。

[福田昭,EE Times Japan]

MTJを構成する残りの要素

 国際会議「IEDM」のショートコースでCNRS(フランス国立科学研究センター)のThibaut Devolder氏が、「Basics of STT-MRAM(STT-MRAMの基礎)」と題して講演した内容を紹介するシリーズの第14回(最終回)である。

 前回は、磁気トンネル接合(MTJ)を構成する主な要素の1つ「自由層」を解説した。今回は、MTJを構成する残りの要素を説明する。残りの要素とは、「固定層」や関連する磁性層、電極、中間層、下地(基板)などである。

講演のアウトラインを示すスライド。薄緑色でマーキングした部分が今回のパート(クリックで拡大) 出典:CNRS

47層もの超多層膜が必要となるスピン注入MRAM用MTJ

 これまでは磁気トンネル接合(MTJ)素子を、3層構造(固定層/トンネル層/自由層)で説明してきた。この単純な構造は間違っていはいないが、スピン注入型MRAM(STT-MRAM)を想定して研究されている実際のMTJとは、かなり違う。3層の簡素な構造を使用したのは、説明を簡略にするためだ。

 スピン注入型MRAMのMTJは、例えば47層もの超多層膜で構成される。しかも各層の厚みは極めて薄く、原子層レベルで厚みを制御しなければならない。このような高分解の成膜が小面積の基板で可能になったのは1980年代半ばのことだ。原子層の分解能で厚みを制御する成膜技術が改良された結果、大口径のシリコンウェハーに適用できるようになったから、スピン注入型MRAMの実用化が現実味を帯びてきたといえる。

 47層の内容を自由層側から固定層側にかけて具体的に見ていこう。最初にタンタル(Ta)層がくる。厚みは10nm、役目は下地基板とのバッファである。このバッファ層が最も厚い。次に自由層の主要層であるコバルト鉄ホウ素(CoFeB)の合金層が載る。厚みは0.8nmしかない。そしてトンネル障壁層の酸化マグネシウム(MgO)層を成膜する。厚みは2nm〜3nmくらい。

 ここまでの層数はバッファ層を含めて3層しかない。残りの44層は全て、固定層と関連する磁性層である。最初は固定層が載る。固定層は全部で14層もある。まず鉄(Fe)層、続いてCoFeB層、それからTa層を成膜する。厚さはそれぞれ、0.5nmと0.8nm、0.3nmしかない。そしてCo層とパラジウム(Pd)層を対とする5対の多層膜が載る。Co層の厚みは0.25nmで、MTJを構成する薄膜層としては最も薄い。Pd層の厚みは0.8nmである。その上に、厚さ0.3nmのCo層が載る。

 そして中間層(スペーサ層)として厚さ0.9nmのルテニウム(Ru)層が入る。それから、Co層/Pd層のペアを14回重ねた多層膜が載る。Co層の厚みは0.25nm、Pd層の厚みは0.8nmである。最後に、キャップ層として厚さ7nmのTa層が載る。

スピン注入型MRAM向けMTJの構造例(クリックで拡大) 出典:CNRS
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