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» 2016年06月27日 11時30分 UPDATE

イノベーションは日本を救うのか 〜シリコンバレー最前線に見るヒント〜(3):自前主義で“モノづくりの自由度”を失った日本 (1/2)

クローズド・イノベーションで辛酸をなめた米国のあるメーカーは、オープン・イノベーションへと考え方を変えていった。一方で日本の半導体業界は、「オープン・イノベーション」をうたいながらも、実際は“自前主義”、過度なクローズド・イノベーションを貫いてきた。

[石井正純(AZCA),EE Times Japan]

クローズド・イノベーションの“悪い例”

 さて前回は、イノベーションを行う環境である「クローズド・イノベーション(Closed Innovation)」と「オープン・イノベーション(Open Innovation)」が、それぞれどういうものかを解説した。

 クローズド・イノベーションの悪い例が、コピー機を手掛けるXerox(ゼロックス)だ。実は、同社はこうした“悪い例”として、しばしば取り上げられてしまう。

 ゼロックスでは、コピー機の開発はもちろんのこと、将来のオフィスで使われるであろう製品やソリューションを開発することがミッションであった。そうしたソリューションの1つとして社内から提案されたのが、PDF(Portable Document Format)の考え方だった。ところが、これは当時のゼロックス経営陣のカンに障った。何せゼロックスはコピー機を手掛けているのである。PDFが世の中に普及してしまったら、コピー機をはじめ紙もトナーも不要になってしまう。そう懸念した経営陣はPDFのアイデアを却下。結局、PDFの開発者たちは社外へと飛び出し、Adobeという会社を設立したのである。

 実は、ゼロックスでは、このような事例はPDFだけではなかった。ゼロックスにアイデアや開発を認められなかったため、それを理由にスピンアウトした企業はAdobeをはじめ35社くらいはあるといわれている。それらスピンアウト企業の時価総額を足すと、ゼロックス1社よりも大きくなってしまうのだ。結局、ゼロックスは2000年前後に業績が悪化、そこを起点に同社はオープン・イノベーションの考え方に変わっていった。

ジョブズも影響を受けていた

PARCの外観(クリックで拡大) 出典:PARC

 クローズド・イノベーションで辛酸をなめたゼロックスは、オープン・イノベーションの考え方へと移行していく。

 それを象徴するのが、ゼロックスが米国カリフォルニア州パロアルトに設立した「PARC(パロアルト研究所)」である。

 1970年にゼロックスの子会社として設立されたPARCのミッションは「将来のオフィスで使われる技術」の開発だった。もともとはほとんどの技術開発は親会社のゼロックスおよび米国政府からの委託研究だったが、2000年前後を境として民間企業からの委託研究あるいは民間企業との共同開発を強力に推進するように変わっていった。実際、現在も使われている重要な技術が生まれている。例えばイーサネットだ。また、マウスでウィンドウを操作する、いわゆるGUI(Graphical User Interface)を導入した最初のワークステーション「Alto(アルト)」も、PARCから生まれている。このAltoは若かりし頃のスティーブ・ジョブズに大いにインスピレーションを与え、同じようにGUIを導入したワークステーション「Lisa」を開発するに至ったのは有名なエピソードである。結局Lisaは商業的には失敗したものの、次に開発した「Macintosh(Mac)」がどれほどの成功を収めたかは、言うまでもないだろう。ちなみに、筆者は2006年から2012年までPARCのシニア・エグゼクティブ・アドバイザーを務め、特に日本の民間企業とのオープンイノベーションを積極的に進めた経緯がある。

 PARCは、近年はサイバーセキュリティやインダストリアルコントローラーなどの開発も手掛けている。PARCの売上高は、約半分が親会社であるゼロックスからの研究委託によるものとなっている。残りの半分が、米国政府や日本企業も含むゼロックス以外の企業からの研究委託や、外部からのライセンスフィーなどである。

PARCが開発した「Alto」(クリックで拡大) 出典:PARC

 なお、ここで1つ付け加えておきたいのは、「オープン・イノベーション」の考え方は、「オープン・イノベーション」という言葉が生まれる前から存在していた。技術提携や共同開発、技術ライセンスイン(導入)およびアウト(導出)、開発委託、ジョイントベンチャーの創出。こういったことは全てオープン・イノベーションの考え方を実践するものであり、コンセプト自体は1960年に既に議論され、1980年代から既に活発に行われてきた。実際、筆者もAZCAを設立して以来、日米企業間の戦略的提携を含め、オープン・イノベーションを幾度もサポートしてきた。そして、米国の経営学者で、カリフォルニア大学バークレー校の客員教授であるHenry Chesbrough(ヘンリー・チェスブロウ)が、2003年の著作の中で上記のような動きを体よく「オープン・イノベーション」という言葉でまとめたのである。

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