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「江バ電」で人身事故をシミュレーションしてみた世界を「数字」で回してみよう(31) 人身事故(8/9 ページ)

» 2016年06月29日 11時30分 公開
[江端智一EE Times Japan]

で、それは、いくらくらいなのか

 では、最後に、その損害を具体的な金銭に落してみたいと思います。

 先ほど、遅延時間は、事故の復旧時間とほぼ正比例の関係にあると述べましたが、被害額は事故の復旧時間の2乗の関係となります。

 今回、私が日常的に使っている人件費(ソフト外注費)をベースに、単純な時間の加算を使っただけでも、たったの1回、2時間程度、電車を止めるだけでも、損害額は1億円を突破します。(こちらから、計算結果のExcelファイルがダウンロードできます)

 これは、単純な乗客の損失時間だけを使っていますが、実際には乗り継ぎの失敗(別の路線の電車、バス、飛行機など)、打ち合わせ、会議、商談を含めれば、この程度の金額ですむはずがありません。

 そもそも、事故現場には、鉄道会社の所有物である車両の損壊のコスト、バラバラになった死体を拾い集めるコスト、線路や枕木にこびりついた血液や体液を洗いながすコスト、警察の現場検証のコスト、その他、もろもろのコストがあるはずですが、それらのコストは、ここには算入されていません。

 最終的に、列車への飛び込み自殺によって、上記の表で算出した値の何倍のコストになるのかは、(現時点の私では)分かりかねます。

 しかし、私は納得できないのです。

 だから、―― もし誰も言えないのであれば ―― この機会に、私が言い切ってみたいと思います。

 ―― あんたの人生は、見も知らぬ人々に、これだけの損害を与えるだけの、大層な価値があるのか

と。

 繰り返しますが、私は、鉄道の飛び込み自殺を図ってしまう多くの人々が、その瞬間、正常な判断能力を欠き、自分でない何かに身体を乗っ取られ、責任能力を喪失した状態であることを十分に知っていますが、それでも、

―― それでも、なお、

  • ある朝、人身事故のため、出張に行くための電車に乗るべく駅のホームを全力疾走させられ
  • その夜、人身事故のため、クタクタになって帰ってきた深夜の電車で、すし詰めにされる

という理不尽に対して、『仕方がないなぁ』とおおらかに構えられるほどに、私の器は大きくはないのです。


 では、今回のコラムの内容をまとめてみたいと思います。

【1】太平洋戦争(1941年〜)開戦前、戦争中において、日本の自殺率は劇的な改善が見られ、また、2011年の3・11震災においても、鉄道飛び込み自殺者数の減少を感じることができました(江端の主観で)。このことから、「3・11震災においても、国民の一体感、団結感が達成され、この結果、鉄道飛び込み自殺者数が減少した」という仮説を立ててみました

【2】しかし、上記仮説を成り立たせる証拠(数値データ)は見つからず、それどころか、鉄道への飛び込み自殺は、日本人全体の自殺率に対して、悪い水準で推移していることが分かりました

【3】この理由として、3・11震災が、太平洋戦争時と同程度の状況だったかを検証するために、江端のブログをレビューしました。この結果、江端が「3・11震災」をわずか半年足らずの時間で日常から消し去ってしまっていたという事実を確認し、この仮定の妥当性を、(江端が個人的に)確認しました

【4】江端家のPCの中に、仮想の鉄道会社「江端電鉄株式会社」(通称:江バ電)を作り、「江バ電」で各種の人身事故を発生させてみました

【5】この結果、人身事故によるダイヤの回復時間は、おおむね、人身事故が片付くまでの時間に比例することを確認しました

【6】一方、人身事故による江バ電の乗客の金銭的な損害は、おおむね、人身事故が片付くまでの時間の2乗に比例して悪化していくことを確認しました

 以上です。

 次回は、江バ電をもう少し整備した上で、もう少し精度の高いシミュレーションができたらいいなぁ、と思っています。

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