北海道大学は、1つの単位胞に12枚ものプラチナ(Pt)層が積層した新しい超電導体を発見したと発表した。合成に成功したLaPt5Asは、地球内部のマントルに相当する10万気圧で熱処理することで、2.6ケルビン(-270.4℃)で電気抵抗がゼロになる超電導転移を確認したという。
北海道大学電子科学研究所で助教授を務める藤岡正弥氏は2016年7月、物質・材料研究機構(NIMS)の高野義彦氏と、九州工業大学の石丸学氏と共同で、1つの単位胞に12枚ものプラチナ(Pt)層が積層した新しい超電導体を発見したと発表した。
ランタン(La)とヒ素(As)をPt:La:As=5:1:1の組成比になるように混合し、地球内部のマントルに相当する10万気圧で熱処理することで、2.6ケルビン(-270.4℃)で電気抵抗がゼロになる超電導転移を確認したという。
1911年に極低温において、水銀が超電導体になることが発見されて以降、さまざまな超電導物質が報告されてきた。しかし、Ptは電気伝導に寄与する電子の大半が、d軌道*)に存在してお互いに強く相互作用するため、超電導体に不向きといわれていた。
*)d軌道:原子を構成する電子軌道の1種で、遷移金属の化学結合を大きく左右する1番外側の軌道である。
今回、合成に成功したLaPt5Asでも、伝導電子の8割以上がd軌道に存在するが、超電導転移を示した。積み重なったPt層の間にLa、As原子が位置しており、結果としてPt層同士の距離が広がっていたからだ。つまり、「Ptのd軌道に存在する電子同士の相互作用が小さくなることで、超電導が発現したと考えられる」とした。
LaPt5Asの層状構造の高さは、これまでの金属超電導材料で最も高い6nmにも及び、同研究グループは「まるで高層ビルのような構造が、10万気圧という超高圧化で実現された」と語る。4~5万気圧、あるいは15万気圧では、別の結晶構造に変化して超電導体状態への転移が消失したという。
今回の研究で得られた新物質は、10万気圧という地球内部のマントルに相当する極めて高い圧力を印加することで、初めて合成できる。同研究グループは今後、新構造を起点として結晶構造を最適化することで、超電導転移温度の向上を目指す。
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