メディア

自動車、産業、Power IoT―― パワエレ総合力を結集し成長市場に挑むサンケン電気 執行役員兼技術本部副本部長 中道秀機氏

サンケン電気は、IGBT、MOSFETといったパワー半導体素子から、電源ユニットやUPS、パワコンなどの大型機器までを扱う総合パワーエレクトロニクスメーカーとして、自動車をはじめとした成長市場でエコ/省エネを実現する技術、製品の提供を行っている。さらには、間もなく迎えようとしているIoT(モノのインターネット)時代の新たな電源のカタチとして“Power IoT”を提唱。「素子だけでなく、モジュール、システムレベルでの提案が行えるサンケン電気ならではの強みを生かして、Power IoTなどの新しい価値提供を行っていく」という同社執行役員で技術本部副本部長を務める中道秀機氏に、技術/製品開発戦略を聞いた。

» 2016年08月22日 10時00分 公開
[PR/EE Times]
PR

10年先を見越した要素技術開発に着手

――2015年度からの中期経営計画について教えてください。

中道秀機氏 成長市場へ注力するという基本方針のもと、3カ年の中期経営計画を実施している。2016年度はその2年次にあたり、成長市場を「エコ/省エネ グリーンエネルギー市場」と設定し、なかでも、海外市場、新エネルギー市場に注力した製品/技術開発、拡販活動を行っている。

――中期経営計画での技術開発部門としての目標は?

中道氏 今回、中期経営計画を策定するにあたり、10年先を見越した中長期ロードマップを作成した。サンケン電気のコア技術である「IGBT・FETなどのパワー素子」「IC」「パッケージ/モジュール」の3つの要素技術それぞれで、10年後、どういったテクノロジーが必要になるかを描いた。

 要素技術開発には、中期計画の3年間を上回るような、長い時間をじっくりとかける必要がある。そこで、中長期的視点からロードマップを作成したうえで、足元の3年間に成し遂げなければならないことを洗い出し、その実現に向けた技術開発に取り組んでいる。

 同時に技術開発体制も大きく見直した。製品別事業部ごとに持っていた技術開発機能を、半導体部門全体で1本化した。事業部間で共通の技術要素は多くあり、効率化する狙いがある。また、開発した要素技術を、市場ニーズを的確に捉えた製品として応用するため、自動車、モーター、電源といった成長用途別のマーケティング部門を設けた。マーケティング部門がくみ取った市場ニーズを基に、先に述べた開発部隊が製品開発を行っている。

自動車、産業用途のインバーターに向け製品拡充

――「パワー半導体」「IC」「パッケージ/モジュール」の各要素技術分野での現状の開発テーマを教えてください。

中道氏 パワー素子については、耐圧600〜1200Vの高耐圧と耐圧100V以下の製品の強化を図っている。

 サンケン電気はこれまで長く、主に民生機器に向けた耐圧600V以下のAC-DCやDC-DCといったコンバーター向けを得意としてきた。しかし、近年は、売り上げの多くを自動車、産業機器、通信機器など非民生機器が占めるようになり、主力がモーターを駆動するインバーター向けに移ってきた。これまでも耐圧600Vを超える高耐圧MOSFET、IGBTをラインアップしてきたが、より一層、高耐圧領域のパワー半導体製品群を強化する。

 直近では、2015年12月に最大100kHzの高速スイッチングを実現するフィールドストップ(FS)型IGBTを製品化した。最適化したセル構造により、高速性とトレードオフ関係にあるVce(sat)を抑えることに成功した。耐圧650Vで30〜60A品を用意し、既に産業機器向けで量産が始まっている他、エアコンや各種パワーコンディショナー、さらには車など幅広い用途に提案できる製品だ。

フィールドストップ(FS)型IGBTの製品特長

SiC-MOSFET、2016年中に出荷へ

――高耐圧デバイスとしては、SiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)を使ったデバイスも注目されています。

中道氏 SiCデバイスについては、2015年度にショットキーバリアダイオード(SBD)を製品化し複数の用途で採用が進んでおり、2016年度内には、耐圧1200VのSiC-MOSFETをいよいよ製品化する予定だ。その後も、新構造のSiC-MOSFETも開発を進めており、順次、投入していく方針だ。

 優れた特性のSiC-MOSFETが仕上がっているものの、実際に顧客に対し提案していく上ではまだまだ課題を抱えていると考えている。というのも、顧客の多くは、これまでのシリコンのIGBTの代わりに、SiC-MOSFETを使いたいと考えているだろう。すなわち、シリコンIGBTと同一パッケージ、同一フットプリントのSiC-MOSFETが要求される。しかし、これまでのシリコンと同一のパッケージを用いた場合、より小さなパッケージを実現できるSiC-MOSFETの利点を享受できなくなる。SiC-MOSFETの供給メーカーとして、SiC-MOSFETの利点を最大限に発揮するためのソリューションを構築し、パッケージが変わったとしても顧客に受け入れてもらえる提案をしていく必要があると考えている。

 今後、SiCデバイスの出荷を通じて、顧客の声をヒアリングしながら、社内のモジュール技術、電源システム技術とも融合させ、SiCデバイスのためのシステムレベルの技術を構築していく。

――GaNデバイスについては。

中道氏 SiCはインバーター系、GaNは高速スイッチング性能という利点を生かせるコンバーター系をターゲットに開発を継続している。既に、実用化レベルのノーマリオフタイプのGaNトランジスタ素子を開発済みで、製品化に向けモジュール開発を行っている状況だ。

メモリ、MCU混載可能な耐圧90V BCDプロセス

――ICの開発テーマについて教えてください。

中道氏 ICにおける要素技術については、海外子会社でICの開発を手掛けるAllegro MicroSystemsと、海外製造子会社Polar Semiconductorと連携してプロセス開発を行っている。現在、取り組んでいるプロセスは、「SG8」と呼ぶ第8世代ICプロセスで、耐圧90VのBCD(Bipolar、CMOS、DMOS混載)プロセスだ。SG8では、メモリやマイクロコントローラーの搭載も可能であり、電子化が進む車載機器に対しより高度なドライバー/コントローラーをワンチップ化した製品が実現できる見込みだ。

 ゲートドライバ用高耐圧プロセスとしては、2015年に600V耐圧ながらメモリ混載に対応した「SG7」も構築済みだ。今後も、耐圧を高めながら、モーター、電源の制御/駆動部を高度に集積できるプロセス開発を行っていく。

――パッケージ、モジュール技術の開発テーマ、開発状況をお聞かせください。

中道氏 パワー半導体同様、高耐圧/大容量領域向けのパッケージとモジュール開発に重点を置いている。

 低損失化を達成するには、素子だけでなくパッケージ技術が重要になっている。低熱損失パッケージ技術で常に、業界をリードしていきたい。

高放熱を特徴としたパッケージ群

 さらに昨今は、素子単体ではなくモジュールとして提供してほしいというニーズがますます大きくなっている。サンケン電気は、パワー半導体素子から制御IC、パッケージ、そしてモジュール、システムまで手掛ける数少ない総合的なパワーエレクトロニクスメーカーという強みがある。モジュール、システムレベルで、高い価値を実現する製品を提供していくため、2016年4月から、モジュール開発専門のチームを設けた。これまで以上に、最新パワー半導体素子の利点を引き出せる独自モジュールパッケージを迅速に開発して、提供していく。

IoT時代の電源“Power IoT”を提唱

――研究開発部門として特に重点を置いているアプリケーションはどのようなものですか。

中道氏 1つは、EV/HEVの普及でパワー半導体需要が伸び、サンケン電気としての売り上げ比率が高まっている自動車。その中でも、海外の自動車市場に一層の浸透を図っていく方針で、海外市場の要求に対応できる技術、製品の開発を進めていく。

 また、産業機器や白物家電など向けのモーター、各種電源も引き続き注力していくアプリケーションだ。特に、IoT(モノのインターネット)の加速で、今後、電源も大きく様変わりすることが予想される。IoT時代の次世代電源「Power IoT」を提案していく。

――「Power IoT」について詳しくお聞かせください。

中道氏 IoTの流れの中で、電源そのものを、インターネット、通信とつなげることにより、効率や堅ろう性を高める動きが出てくると予想している。そこでサンケン電気として打ち出しているのが“PowerIoT”という概念だ。端的に言えば、通信に接続され、通信経由で監視/制御が行える電源のことだ。

サンケン電気が提唱する次世代電源「Power IoTの概要」 (クリックで拡大)

 ただこうした、通信につながる“Power IoT”を実現するには多様な技術が必要になる。パワー半導体素子、パッケージング/モジュール技術はもとより、通信に対応したデジタル制御MCU、電源/電力制御トポロジーが不可欠だ。また、電力の見える化を実現するには、センシング技術が必要になる。

総合力を生かし、Power IoTを実現へ

――Power IoTに向けて今後、多様な技術を取りそろえていく必要がありますね。

中道氏 いや、実は、既にサンケン電気には、Power IoT実現に必要な技術要素は、全てそろっている。例えば、通信に対応するデジタル制御MCUについては、2014年に日立超LSIシステムズのミックスドシグナルマイコン事業部門を譲受する形で獲得している。譲受後、サンケン電気として培ってきた電源技術をデジタル制御MCUに加味し、負荷応答が高速なデジタル制御技術や、現代(予測)制御技術をより実装しやすいMCUを実現している。

高速負荷応答を実現するデジタル制御技術の概要 (クリックで拡大)

 センサー技術については、グループ会社のAllegro MicroSystemsが主力ビジネスとして取り組んでおり、特に車載市場向け磁気センサーでは確固たる地位を築いている。この技術を用い、既にセンサーデバイスとデジタル制御ICを融合させた製品を製品化している。さらに、先ほどお話した共同開発のSG8 BCDプロセスを用いる事で、高密度デジタル回路、パワーデバイス、磁気センサーデバイスを一つのシリコンで実現し、機能性を高めたシステムオンチップ製品を計画している。

 こうした既に構築しているデジタル制御/通信/センサー技術と、先端のパワーデバイスモジュールを組み合わせた、“Power IoT製品”を提供していく。まずは、最新のFS型IGBTを使ったPower IoT製品を開発し、産業用途など大電力を扱うアプリケーションから、Power IoTの普及を目指していく。

――“Power IoT”には、サンケン電気の強みが凝縮されていますね。

中道氏 Power IoTは、デジタル技術、センサー技術とともに、高度なアナログ技術が必要だ。さらに、各技術、各デバイスを組み合わせて、電源システムとして構築しなければならない。サンケン電気には、デバイスレベルの要素技術はもとより、電源機器メーカーとしてのシステム開発力もある。まさに、Power IoTはサンケン電気だからこそ実現できるといえるだろう。

成長市場のニーズ捉えた研究開発を推進

――今後の技術開発方針をお聞かせください。

中道氏 繰り返しになるが、顧客は、素子単体ではなく、モジュール、システムでのソリューションを求めている。Power IoTのように、サンケン電気が持つ総合力を生かし、システム提案力を強化していく。

 システム提案力の強化には、“優れた要素技術をそろえ、融合させること”と、“アプリケーション/顧客のニーズを的確に把握すること”の2つが必要になる。ニーズの把握には、これまで以上にアプリケーションに特化したマーケティングが不可欠だと考え、2016年4月から、成長市場と位置付ける「Power IoT」「車載モーター」それぞれの専門部隊を新設し、システムレベルでのマーケティングを実施している。そうしたマーケティングから得られたニーズ、トレンドを、中長期の要素技術開発ロードマップにフィードバックし、優れたシステムレベルの製品を開発、提供していく。


インデックスページに戻る

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.


提供:サンケン電気株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2016年9月21日

2016年 【技術トップインタビュー】 一覧

短距離と長距離の低消費電力ネットワークをおさえて、IoT市場に攻勢をかける

自動車、産業、Power IoT―― パワエレ総合力を結集し成長市場に挑む

強みは5万品種に上る製品群、IoT向けプラットフォーム構築を目指す

将来を先取りした“賢い電源”で、IoT時代を切り開く

高性能アナログ技術をベースに“More than Silicon”でIoTを切りひらく

RSSフィード

公式SNS

All material on this site Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
This site contains articles under license from AspenCore LLC.