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ARMがもたらした“老舗コンサバ、新興アグレッシブ”の現状製品分解で探るアジアの新トレンド(9)(2/2 ページ)

» 2016年10月24日 11時30分 公開
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Amlogicの“インプリメント力”

 2014年、「Android L」の名前でGoogleがリリースを開始した、64ビット化されたAndroidは2015年、瞬く間に市場に広まった。64ビット化を実現するためには、ARMの新CPUコア「Cortex-A5x」シリーズを用いるしかない(もしくはIntelのAtomやMIPS64)。今までの「Cortex-A15」「同A17」「同A7」「同A9」をアップグレードする必要が、全ての半導体メーカーに等しく訪れた。

 先行するQualcommも、MediaTekも、OSの64ビット化に合わせ、2014〜2015年、ハイエンドからミドルハイ、ローエンド製品まで一斉に64ビット化、Cortex-A5xの切り替えを行っている。

 QualcommやMediaTekはハイエンドばかりでなく、数量の多いミドルハイ、さらにはローエンドまでを同時期にリリースする。最も数量が多いのはミドルハイだ。ここではクアッドコアの「Cortex-A53」が使われることが多い。ハイエンドでは性能重視のCPUコア「Cortex-A57」や「同A72」が使われる。ローエンドはシングルコアなどと作り分けている。

 Amlogicの「S905」はクアッドコアのCortex-A53だ。QualcommやMediaTekのミドルハイにおおよそ仕様が似たものになっている。QualcommではSoC(System on Chip)の「Snapdragon410」、MediaTekでは「MT6735」あたりが同じレンジに入ってくる。

 これら3チップは偶然にも同じ28nmプロセスを用いて製造され、ほぼ同じ時期に市場にリリースされた。ただしAmlogicチップにはLTEモデム機能が含まれていない。また、搭載されるGPUもおのおの別物なので、同列比較はできないものになっている。

 図3は、上記3チップのチップ開封を行い、配線層剥離を経て内部の構造が分かるようにして、CPU部分のみ着色し実際の面積を求めたものである。サイズは実際のチップサイズ比に合わせた。

図3:ARMのクアッドコア「Cortex-A53」を搭載したチップ3種類。いずれも、28nmプロセスで製造されている(クリックで拡大) 出典:テカナリエレポート

 同じCortex-A53のクアッドコアと、28nmプロセス(製造工場は若干異なる)を用いている。しかし、図3のように3社のCPUサイズは、大きく異なっている。

 ARMコアを用いれば、電力、チップ面積、動作周波数がどれも同じになると思いがちだ。その感覚は広義では間違っていない。だが、インプリメント、つまり実装の仕方(用いるライブラリ、ターゲット周波数など)によって、面積や性能は異なってくる。この3チップの中で最も高い周波数を実現しているのはAmlogicの「S905」で、Qualcommの製品などに比べておおよそ1.5倍以上を達成している。しかもチップ面積は最も小さい。通常は、周波数が上がると面積は増える。電流を多く流すことで速度を上げるので、面積の大きい回路/パターンを用いるからだ。

 面積は最小で周波数が最大。この数字だけを見れば、Amlogic社のインプリメント力が最も高いことになる。インプリメント力とは、「同じ素材を使って競合他社にない、高い価値を生み出す実装力」のことだ。

 Qualcommなどはモバイル機器(スマートフォンなど)で利用するために、電源遮断など各種の仕組みをCPUの中に組み込んでいるはずだ。その差が面積に現れてしまうことは十分に理解できる。しかし電源遮断などの仕組みはせいぜいCPUの面積を数パーセント広げる程度である。AmlogicのCPUサイズの小ささは、やはりインプリメント力の高さの現れである。弊社ではチップ内部の部品レベル(STDセル)までくまなく調査した。

 ARMコアを用いることで、中国でも最新CPUコアを用いたプロセッサを作れるようになった。以降、10年近い年月が過ぎている。当初はただARMを用いるだけであった中国メーカーも、今や最大限に工夫をこらし、先行するQualcommやMediaTekよりも、面積が小さく、かつ周波数の高いものを作れるようになっている。

 このような事例を目の当たりにすると、「老舗コンサバ、新興アグレッシブ」と思わずつぶやかずにはいられない。

執筆:株式会社テカナリエ

 “Technology” “analyze” “everything“を組み合わせた造語を会社名とする。あらゆるものを分解してシステム構造やトレンドなどを解説するテカナリエレポートを毎週2レポート発行する。会社メンバーは長年に渡る半導体の開発・設計を経験に持ち、マーケット活動なども豊富。チップの解説から設計コンサルタントまでを行う。

 百聞は一見にしかずをモットーに年間300製品を分解、データに基づいた市場理解を推し進めている。


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