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» 2016年10月25日 11時30分 UPDATE

“異端児エンジニア”が仕掛けた社内改革、執念の180日(6):エバ機不正の黒幕 (1/3)

須藤たちが手探り状態の中、湘南エレクトロニクスでは希望退職の受付が始まった。一方で、一連の発端となったエバ機不正について、黒幕の一端が明らかになる――。

[世古雅人,EE Times Japan]

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これまでのお話

映像機器関連の開発、販売を手掛ける湘南エレクトロニクス(湘エレ)。ある朝、同社が社運をかけて開発した最新のデジタルビデオカメラについて顧客から1本のクレームが入る。そのクレームが引き金となり、ついには全社員の4分の1に当たる500人を削減するという経営刷新計画が始まった。湘エレの中堅エンジニア須藤は、容赦なく始まったこの計画の波に翻ろうされながらも、会社を何とか変えようと、1人立ち上がる。そして、自分と同じ志を持っていると思われる“仲間”を集め、自社再建に向けてスタートを切ったのだが……。




容赦なく始まった希望退職受付

 湘南エレクトロニクス(以下、湘エレ)の社内では、経営刷新計画の一番の目玉でもある500人の希望退職の受付を開始していた。先日、須藤からのメールの呼びかけに応じてくれた人事課長の三井も、中高年層の社員向けの再就職支援(アウトプレースメント)策を作成するなど、何かと忙しいようだが、須藤は、三井の表情からやるせなさを感じていた。

 希望退職が告げられて間もないころは、社内のあちこちで経営批判が起き、職場が荒れたものだが、今はそれも徐々に収まりつつある。

 以前の湘エレの社員特性は、真面目なんだけど、どこか覇気のない感じ……そんなふうに須藤は思っていた。技術部のエンジニアにしても、課長の森田をはじめ、本社の営業部に無理難題を言われ続けても何一つ文句を言わない“いい子ちゃん”だった。いち早く希望退職に手を挙げた社員の何割かは、残っている有給休暇の消化を開始する、転職活動を開始するなど、オフィスで目にする社員は明らかに少なくなっていた。

画像はイメージです

 マスコミが湘エレを取り上げることも少なくなり、以前の日常が戻りつつある。だが、社員が減ったなぁと感じる場面が増え、あれだけ忙しかった開発課も、経営刷新計画の開始とともに、誰もが定時退社するのが当たり前になった。以前なら、“仕事帰りのちょっと一杯”で同僚を誘う様子も見られたが、今では皆、定時退社すると誰もがよそよそしく会社を後にし、帰路につく。希望退職によって社員が500人減る日が、もうすぐそこまで迫っているのだ。

 何人の社員が希望退職に手を挙げるか分からない。須藤たち30代半ばの社員は、就職氷河期を乗り越えてきた世代だ。つらかった就職活動はトラウマのようになっていて、今、会社を辞めれば、またあのつらい就活をしなくてはならないのか、という暗たんたる気持ちになる。それ故、すんなりと手が挙がるとは思えない。

 湘エレで“そつなく過ごし”、定年を迎える人生設計をしていた人もいただろう。若手ならともかく、40代50代の再就職は相当厳しいということも聞いている。「何が何でも辞めない」と、会社にしがみつく社員もたくさんいるだろうが、それを自分は責めることができるだろうか?…と須藤は考えていた。

一連の事柄の発端となったエバ機の調査は

 当初、須藤を中心とした同期の営業部の末田、知的財産部の荒木たちは、エバ機の問題(1:設計と異なるデバイス/A-Dコンバーターが搭載されていたこと、2:試験成績書のデータ改ざん)の解決がうやむやになりそうなので(第3回:始まった負の連鎖)原因究明を自分たちの手で行おうとしていた。

 しかし、企画の佐伯課長は、「経営刷新計画が実施されている今、最優先すべきことは希望退職後の社員が、きちんと自社再建の青写真を描けるかどうかだ」と意見している。これはこれで一理あると、須藤たちも同意していた。

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