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» 2016年10月26日 13時30分 UPDATE

新設計手法で高精度に光子検出:SSPDの波長特性を自在に設計、NICTが開発

情報通信研究機構(NICT)は、超伝導ナノワイヤー単一光子検出器(SSPD:Superconducting Nanowire Single-Photon Detector)の波長特性を自在に設計することができる光学構造設計手法の開発に成功した。

[馬本隆綱,EE Times Japan]

量子暗号通信や蛍光相関分光、リモートセンシングなどに適用

 情報通信研究機構(NICT)は2016年10月、超伝導ナノワイヤー単一光子検出器(SSPD:Superconducting Nanowire Single-Photon Detector)の波長特性を自在に設計することができる、新しい光学構造設計手法を開発したと発表した。量子暗号通信や蛍光相関分光、リモートセンシングなどにおいて精度の高い光子検出を可能とする。

 SSPDは、感度や時間分解能が高く、低ノイズといった特長を持ち、従来の導体光子検出器(アバランシェフォトダイオード)に比べ、極めて性能が高い。このためNICTは、通信波長帯(1550nm)や可視波長帯で、システム検出効率の高いSSPDをこれまで開発してきた。

 ところが、従来の光キャビティ構造だと、最適化した波長では高い検出効率が得られるものの、それ以外の周辺波長で光吸収効率を制御することはできなかった。このため、広い波長範囲で高いシステム検出効率を達成することや、黒体輻射による光や迷光といった不要な波長の光を吸収することによる暗計数(ノイズ)の除去が難しく、応用分野は限られていたという。

 NICTは今回、誘電体多層膜による光学構造を新たに採用することで、これまでの課題を解決した。具体的には、2種類の誘電体(二酸化シリコンおよび二酸化チタン)からなる多層膜をシリコン基板上に積層。その上部に超伝導体である窒化ニオブのナノワイヤーを配置する構造とした。誘電体多層膜の材料や層数、各層の膜厚を最適に制御すれば、ナノワイヤーの光吸収効率について、所望の波長特性を実現することができるという。

SSPD構造と波長特性 (クリックで拡大) 出典:NICT

 NICTは、新たに開発した構造と開発手法を用いてSSPDを作製し、検出効率の波長特性を評価した。この結果、波長650〜900nmの範囲で高い光吸収効率を持つように設計した素子の波長特性は、設計値と実測値がほぼ一致していることが分かった。また、通信波長帯における光吸収効率の最適化と同時に、波長1600nm以上の長波長領域における光吸収効率が10%以下になるよう設計したところ、高い検出効率と低ノイズを両立できることが分かった。

 なお、新たな設計手法の開発に向けてNICTは、光学多層膜計算と有限要素解析の2段階で数値計算を行い、超伝導ナノワイヤーへの光吸収効率とその波長特性に関する最適化を行った。

今回用いた2段階の波長特性設計手法 出典:NICT

 設計工程の第1段階は、一般的な多層膜の光学特性最適化ソフトウェアなどを用いた。超伝導薄膜の光吸収効率について所望する波長特性を設定し、誘電体多層膜の層数と膜厚を最適化した。この手法は、比較的短い計算時間で最適化ができるものの、SSPDの検出部が超伝導薄膜ではなくナノワイヤー構造であるため、このままだとSSPDが所望する波長特性が保証されるわけではないという。

 このため、第2段階では、第1段階で用いた誘電体多層膜の設計値を用い、ナノワイヤー構造を計算できる有限要素解析法を用いて実行した。これにより、実際のSSPD構造における超伝導ナノワイヤーの光吸収効率を計算することが可能となり、所望した波長特性が得られることを確認した。

 NICTによれば、開発した誘電体多層膜付きSSPDと波長特性設計手法は、紫外から中赤外の幅広い波長領域で適用できるという。このため、量子暗号通信や生命科学分野における蛍光分光測定、微弱光によるリモートセンシングなどに向けた重要な基盤技術になるとみている。

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