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困惑する人工知能 〜1秒間の演算の説明に100年かかる!?Over the AI ――AIの向こう側に(6/8 ページ)

» 2016年10月28日 11時30分 公開
[江端智一EE Times Japan]

ベイジアンネットワークとは

 今回は、前半に登場した「逆問題」を逆に使い倒すことで、一見無価値なデータを、お金を支払ってでも欲しいデータに変えてしまう、“人工知能技術”の1つである、「ベイジアンネットワーク」について説明したいと思います。

 そしていつも通り、「『ベイジアンネットワーク』が“人工知能”なのかどうか」については、今回も『江端AIドクトリン』に基づいて私が勝手に判定しました。

 読者の皆さんには、このコラムで、私が「人工知能ブーム」をディスっているように見えるかもしれません。しかし、そうではなく、私は"人工知能技術"の発展のために、エールを送り続けている応援団長くらいの気概を持っています。

 そして、"人工知能技術"の中には、私を心底驚がくさせ、「これは絶対に役に立つ技術」と認定しているものもいくつか存在しています。

 その1つが、「ベイジアンネットワーク」です。

 この技術は、皆さんが高校生の時に学んできた(そして今、完璧に忘れている)条件付き確率という、非常にすっきりした数式だけが使われており、それ以外のものは全く使っていない、といっても良いです。

 そして、この「ベイジアンネットワーク」は、これまで読者の皆さんからいただいたアンケート(「人工生殖」「性同一性障害」「ダイエットの目的」など)の中から、私が皆さんに絶対できないような質問や、皆さんが絶対に答えてくれないような回答に対して、皆さんのダークサイドを暴き続けてきた(と信じている)、私が使える"人工知能技術"の最終兵器です。

私は「ベイジアンネットワーク」が好き過ぎて、読者の皆さんにも、その原理と凄さを理解して貰いたくて仕方ありません。そこで、(EE Times Japan編集部に何と言われようとも*))来月も含めて、2回かけて説明させていただきたいと思います。

*)は、はい……。20ページになっても30ページになっても編集……させていただき……ま……す……(編集部一同)。

ベイズの定理とベイズ推論

 「ベイジアンネットワーク」の説明の前に、まず、それを理解するためのベイズの定理と、ベイズ推論の話から始めたいと思います。

 ベイズ推定とは、「因果関係をひっくり返す」解析を行うことで、データの中に含まれる隠れた情報を暴き出す手法です。上記にも記載していますが、「合コンすれば結婚できる」なんて情報は、はっきりいってゴミですし、「合コンしても、結婚できない」という情報も同じくゴミです。

 「合コン」はお金も時間もかかり、人によっては苦痛も伴う*)こともあると思います。

*)私は、合コンで、イスラム教のラマダンついての話題を振って、どの女の子からも口をきいてもらえなくなったという、「『合コン』トラウマ」を抱えています。

 それでも「合コン」が、例えば「婚活」に有効な戦略であるなら、それを数値(成功する確率)で現わすことができるだけで、「金を払ってでも欲しい」情報に変わります。

 さらに、男女の差、年齢などのデータもあれば、それらも条件とした確率を求めることができるのです。これが条件付き確率です。

 この条件付き確率とは、トーマス・ベイズ(Thomas Bayes、1702〜1761年)の死後に発表された「ベイズの定理」のことです。日本では、時代劇ドラマ「暴れん坊将軍(徳川吉宗)」が、法的機関(江戸の町奉行など)の存在を無視して、超法的措置で腐敗官僚を、勝手に私刑に処していた時代のころになります。

 このベイズの定理から「ベイズ推定」という推論方式が生まれたのですが、なぜ、ベイズ推定が今頃になるまで騒がれてこなかったのかというと、恐しく計算が面倒くさく、使いものにならなかったからです。

 以下は、私がベイズ推定を「手計算で試みた」ものです(真面目に読まなくてもいいです)。

 しかし、コンピュータの発明、そして近年の計算力の飛躍的な能力向上によって、ベイズ推定が、自宅のPCでサクサクとできるまでになってきたのです。

 実は、この「ベイズ推定」、大っ嫌いな人も多いのです*)

*)トーマス・ベイズさんの名誉のために言っておきますが、彼は、ベイズの定理を考え出しましたが、ベイズ推定の手法を案出したわけではありません。

 ベイズ推定は、私たちが高校で習ってきた確率の概念を破壊するような考え方の集大成です。

 「確率が分からないなら、取りあえず半分(50%)としとけばいいじゃんYO!」
「新しいデータが見つかったら、後から付け加えればいいじゃんチェケラ(check it out)!!」

という感じに ―― 私には、どうにも、ベイズ推定から、軽薄なDJの声が聞こえてくるような感じがするくらい ―― ぶっ飛んでいます(多分、嫌われている理由は、この辺だと思う)。

 それでも、この話がいい加減な理論でなく、「条件付き確率」という完全な数学の観念に立脚していることを、私に魂のレベルでたたき込んだのが、モンティ・ホール問題でした。

 この問題は、私の固定的な確率の概念をぶっ壊し、確率が後発的にどんどん変化して行くことを(変化しても構わないことを)私に教えました。

 この問題、私だけでなく、どんなに説明されても、納得できない人がたくさんいて、「直感で正しいと思える解答と、論理的に正しい解答が異なる問題」の適例とされています。皆さんもぜひ、モンティ・ホール問題に取り組んで、「苦しんで」いただきたいと思います。

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