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» 2016年11月29日 11時30分 UPDATE

Over the AI ――AIの向こう側に(5):沈黙する人工知能 〜なぜAIは米大統領選の予測に使われなかったのか (2/9)

[江端智一,EE Times Japan]

大統領選に絡むAIの記事がない!?

 今回、私は初めて大統領選について調べてみたのですが、米国のマスコミがここ1年間、ずっと出し続けてきた、その「予測の数字」について算出根拠(データ、計算方法、推定アルゴリズムなど)が、ほとんど「ない」ことに気が付きました。

 そこで、Googleトレンド使って、"AI" + "presidential election" と "Big Data" + "presidential election"で、記事数の推移を調べてみました。

 大統領選の選挙戦は、約1年間続きます(後述)が、"AI"に絡んだ記事は、11月8日の本戦の直前と直後に突然大量に登場する以外、全体的に単調です。予備選挙や党大会でも選挙が行われていますが、これらのイベントの影響は見られません。

 ―― 変だな

 ビッグデータや人工知能を華々しく登場させるなら、大統領選ほど利用価値のある事例があるとは思えません。もっと前から大統領選挙の予測を大々的に宣伝し、自社の「人工知能」や「ビッグデータ」の売り込みをかけるのがビジネスというものです。

 しかし、私が調べた限り、日本はもちろん、地元の米国ですらビッグデータや人工知能を取り扱うメーカーやベンチャーは、大統領選の予測に対して完全な沈黙を決め込んでいたのです。


 こんにちは、江端智一です。

 共和党のトランプさんが、オハイオ州を制したという情報を入手した時に、私は、今回の2016年の合衆国大統領選挙は、

―― ビッグデータ解析と予測技術("人工知能技術"を含む)の完敗

と、判断しました。

 今回の大統領選においても、各種のシンクタンク、調査機関が、最新のデータと予測技術("人工知能技術"も含んでいるだろう)を使って、具体的な数値を上げて、予測を展開していました(ただ、前述の通り、その数値の根拠は提示していません)。

 特に、米国の3大テレビ局(ABC、CBS、NBC)は、最初に「当選確実」を出すことに血道を上げているといってもよく、お抱えの統計学者やデータアナリストを数多く雇っています*)

*)「異端の統計学 ベイズ」(シャロン・バーチュー・マグレイン著 草思社 2013年)

 有効投票数が億の単位(今回は1億1943万人)にもなる、この世界最大の選挙の予測は、投票が行われる前における当選者予測もさることながら、世界中がじっと見守る中、刻々と変化する膨大な数の、不完全で不確かな情報の意味を、トップスピードで理解しなければなりません。このリアルタイム予測*)こそが、このテレビ局の最大の「売り」になるからです。

*)ご存じの通り、日本でも、次の日になれば確実な当選結果が明らかになるのにもかかわらず、投票日の夜には、開票速報番組で各局がしのぎを削っています(そして、過去には、間違った「当選確実」も相当数ありました)。

 今回の大統領選においては、さまざまな調査会社、米国のテレビ局、その他のメディア、そして日本政府や日本国民、もっと言うなら恐らくは世界中の人々も、民主党のクリントンさんが、米国初の女性大統領となることを確信していました。

 一方、共和党のトランプさんは、政治経験なし、米軍所属経験なし、過激で差別的な発言の数々を連発し続け、米国はもちろん、わが国でも多くの人も眉をひそめ、間違っても、トランプさんが大統領選本戦で勝つなど、ありえないと思っていました。

 二人の候補者の政策や言動、資質うんぬんよりは、むしろ「トランプさんに勝てる要因がない」という恣意的な直感の方が先行し、多くのメディアで「『クリントンさんが勝つ』という数字が、あちらこちらにばらまかれ」て、さらにその恣意的な直感を強化していった、という見方もできるかと思います(まあ、終わった後なら何とでも言えますが)。

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