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SamsungがMEMSアンテナチューニングアレイ採用へAppleに先手を打つ

Samsung Electronicsが、スマートフォンに、MEMS可変容量素子を搭載したアンテナチューナーを採用する。現在、多くのスマートフォンメーカーは、アンテナにSOI(Silicon on Insulator)スイッチを用いているが、SamsungがMEMSスイッチを採用することで、今後はMEMSスイッチに移行していくのではないかと専門家はみている。

» 2017年02月03日 09時30分 公開
[R. Colin JohnsonEE Times]

MEMS可変容量素子を搭載したアンテナチューナー

 Samsung Electronicsが、MEMS可変容量素子を搭載したアンテナチューナーを採用することを発表した。同社の「Galaxy A8」の通話が途切れるのを防ぎ、受信性能や電力効率を高めつつ、消費電力を低減することが可能だという。同社はこれにより、ライバルであるAppleに先手を打った形となる。

 Samsungは今回、RF MEMS部品を手掛ける米Cavendish Kineticsのアンテナチューニング技術「SmarTuners」を採用した。Appleは、独自に開発したアンテナチューニング技術の特許を取得しているが、旧式の技術が採用されているため、受信性能を高めるために消費電力が増える場合があるという。

Cavendish Kineticsのアンテナチューナーの下部の写真(左)と、MEMSアレイを搭載した部分の拡大図(クリックで拡大) 出典:Cavendish Kinetics

 米国の市場調査会社であるMobile Expertsで主席アナリストを務めるJoe Madden氏は、EE Timesのインタビューに応じ、「既存のプレイヤーの大半は、MEMSではなくSOI(Silicon on Insulator)スイッチによって容量を変えるアンテナを採用している。今後、帯域幅が集約されていけば、SOIスイッチは使われなくなるだろう。Appleも、RF MEMSスイッチを使用せざるを得なくなるのではないか」と述べる。

 Cavendish Kinetics(以下、Cavendish)は、SamsungがMEMSチューニング技術を採用したことにより、他のスマートフォンメーカーも追随すると確信しているようだ。Cavendishは2016年に、米国の市場調査会社であるLinley Groupの「Best Mobile Chip Award」を受賞している。

 CavendishのCEO(最高経営責任者)であるPaul Dal Santo氏は、EE Timesの独占インタビューの中で、「Samsungのデザインウィンを獲得したということは、Samsungが、当社のRF MEMS技術によって実現可能なメリットを熱烈に支持しているということになる」と述べている。

 さらに同氏は、「ティア1メーカーに採用されたことにより、既存および潜在顧客に対して当社の技術を実証できるようになる。Cavendishは既に、評価から製造までの生産能力の一部において、多くのスマートフォンメーカーとの間で提携を結んでいる」と続けた。

 「アンテナ開発メーカーにとっては、LTE帯域の断片化や、標準規格の進展、フォームファクタの多様化などを受け、既存の技術を適用して優れた性能を実現することが非常に難しくなっている。こうした状況を解決するための手段として、現在RF MEMSへの切り替えが進んでおり、今後はデザインウィンが急激に増加していくとみられる」と述べている。

RF MEMSの可変容量素子 出典:Cavendish Kinetics

 Cavendishは既に、スマートフォンメーカー10社から40件のデザインウィンを獲得していて、競合企業であるSTMicroelectronicsやPeregrine Semiconductor、WySpryなどを大きく上回っているという。

 Dal Santo氏はEE Timesに対し、「Cavendish Kineticsのソリューションは、あらゆる主要な測定基準に対して優れた性能を実現することができるため、TRP(Total Radiated Power)/TIS(Total Isotropic Sensitivity)*)も大幅に高められる」と主張する。

*)TRP:総合放射電力、TIS:総合受信感度

 SOIスイッチは、Appleが“アンテナゲート”問題*)の発生以来苦戦してきたアンテナチューニングを、リアルタイムで実行することができる。しかしSOIスイッチは、信号の挿入損失が大きく、最終的には消耗してしまう。一方MEMSスイッチは、信号の挿入損失がほとんどないため、どのスマートフォンよりも寿命が長く(20年以上)、SOIスイッチよりも高速な動作を実現することが可能だという。

*)Appleの“アンテナゲート”問題:2010年に「iPhone 4」で発生した電波障害問題。アンテナ設計に欠陥があるとされ、米ウオーターゲート事件をもじって“アンテナゲート”といわれた。

 Cavendishは2015年、RF技術に強みを持つQorvoから、2500万米ドルに及ぶ資金提供を受けている。この資金の一部は、Cavendishが2017年後半に発表を予定している第2世代RF MEMSスイッチの設計費用に割り当てられている。

【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】

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