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ウェアラブルで物体検知、目の不自由な人向けにセンサーフュージョン技術で

目の不自由な人でも安全に外出できるように、小型のウェアラブル機器でユーザーの周辺検知を行う技術を開発するプロジェクトが、欧州で始まっている。ADAS(先進運転支援システム)で使われるようなセンサーフュージョンを、ウェアラブル機器に搭載するという取り組みだ。

» 2017年02月08日 13時30分 公開
[Junko YoshidaEE Times]

ウェアラブル機器で周辺の物体検知を

 センサーフュージョンによって可能になる物体検出技術は、現在開発中の自動運転車の根幹である。自動車産業において、同技術は急速に発展してきた。では、目の不自由な人たちを支援するためにセンサーフュージョン技術をウェアラブル機器に適用することはできるのだろうか?

 この課題に一丸となって取り組む研究チームがある。そのチームによる共同研究は、「INSPEX(Integrated Smart Spatial Exploration System)」と呼ばれるシステムを開発するために欧州で立ち上げられたプロジェクトの一部として行われている。

 CEA Techの技術研究機関であるLetiによると、このチームは「身に着けて持ち歩くことができる、マルチセンサーを搭載した低消費電力の物体検出システム」の開発を目指しているという。同チームの最終的な目標は、INSPEXを組み込んだ白杖(はくじょう)と、障害物がある場所で音声フィードバックを提供する付属品(アクセサリー)を開発することである。

「INSPEX」のコンセプト(クリックで拡大) 出典:Leti

 そのような白杖や付属品を機能させるには、自動運転車に搭載される既存の先端技術より数歩先に行く技術を開発しなくてはならない。

 この開発ではまず、あらゆる気象条件下でも可視性を維持できるような物体検知システムを考案する必要がある。煙、ちりやほこり、霧、大雨や大雪、暗闇の中でも検知できる技術は、現在の自動運転車向け技術でもまだ難しいのが実情だ。

 2つ目として、デバイスの重さと消費電力を大幅に低減する必要がある。さらに、これが恐らくは最も重要なことだが、信頼性の向上も必須である。

 Letiによると、INSPEXシステムの潜在的な用途として、ドローン、スマート工場(組み立て装置、安全監視システム)の他、目の不自由な人たちの誘導が挙げられるという。Letiは、「INSPEXシステムは、屋内でも屋外でもあらゆる環境下で、静止している物や動いている物の位置をリアルタイムに検知したり、障害物があることを警告したりするために使用できる」と述べた。

 INSPEXシステムは、ライダー、UWB(超広帯域)レーダー、MEMS超音波センサーなど、多種多様なセンサーを採用している。

 Letiのリサーチディレクターで、この研究プロジェクトのコーディネーターも務めるSuzanne Lesecq氏は、EE Timesに対し、2017年1月1日に始動した同プロジェクトは、EUによる研究プログラム「Horizon 2020」から資金提供を受けていることを明らかにした。INSPEXの開発プロジェクトチームは、2019年の完了を目指し、取り組みを進めている。

 Lesecq氏は、研究チームが2017年12月に最初の概念実証(Proof of Concept)を行う予定であると断言した。同氏は実証が期待される要素として、「低消費電力のマイコンと、周辺を検知するセンシング技術を融合することで、ユーザーの周囲の地図を構築すること」を挙げている。

 ただ、「あらゆる気象条件でも検知できるようにすること」が極めて難しいことはLesecq氏も認めている。「そのためにわれわれは、MEMS超音波センサーからUWBレーダー、ライダーまであらゆるセンシング技術を採用しようとしている」(同氏)

【翻訳:青山麻由子、編集:EE Times Japan】

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