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産総研、小型で高出力の燃料電池システム開発ロボットやドローンにも応用

産業技術総合研究所(産総研)とアツミテックは、小型で高出力の燃料電池システムを共同開発した。

» 2017年02月14日 13時30分 公開
[馬本隆綱EE Times Japan]

内部で部分酸化改質ができるナノ構造電極材料を開発

 産業技術総合研究所(産総研)無機機能材料研究部門機能集積化技術グループの鷲見裕史主任研究員は2017年2月、小型で高出力の燃料電池システムをアツミテックと共同開発したと発表した。

 固体酸化物形燃料電池(SOFC)は、燃料電池の中で最も高い発電効率を得られることから、さまざまな用途で注目されている。ただ、これまで開発されてきたのは定置型で、燃料にはメタンを主成分とする都市ガスを用いるシステムが中心となっていた。これに対して産総研は、災害時など非常用電源向けに、LPG(液化石油ガス)で発電できる可搬型燃料電池システムの開発に取り組み、これまでもいくつかの成果を上げてきた。

今回開発した小型で高出力の燃料電池システムの外観と主な応用例 出典:産総研

 2013年にはLPGカセットボンベを用いたハンディ燃料電池システムを開発した。このシステムでは、炭素の析出を抑制できる燃料極を開発し、400〜600℃でブタンのダイレクト発電を可能にした。ところが、600℃以下の温度では電極活性が低下し、常用電源として用いるには、十分な出力が得られなかった。一方、650℃以上の高温にすると、電極表面に炭素が析出し、電極性能が劣化するという課題があった。

 そこで研究グループは今回、ブタンなどの炭化水素燃料と空気を同時に供給し、内部で水素や一酸化炭素などに部分酸化改質を行うことができる「ナノ構造電極材料」を開発した。さらに、改質条件を最適化する運転制御技術も開発した。これらの技術を用いたところ、電極表面や燃料導入部に炭素析出は確認されず、数百時間の連続発電や、起動停止を数百回繰り返し行っても問題はないことが分かった。

ダイレクト発電と内部改質発電の原理 出典:産総研
炭化水素燃料(ブタン)部分酸化改質の条件最適化を行う前(左)と行った後(右)のセル外観 出典:産総研
改質条件を最適化することで耐久性が向上 出典:産総研
試作した燃料電池システムの発電性能 出典:産総研

 新開発のナノ構造電極材料や運転制御技術を採用したことで、650℃以上でも発電することが可能となり、従来のダイレクト発電に比べて出力は約3倍、体積当たりの出力密度は約3倍に向上した。この結果、小型で高出力の燃料電池モジュールを実現することが可能となった。

 研究グループは、エタノールなど液体燃料による発電も試みた。エタノール燃料はブタン燃料よりも炭素の析出速度が速いため、ダイレクト発電は不可能なことが分かった。ところが、ある条件を見出し、エタノールを水蒸気と反応させて改質したところ、エタノール燃料でも数百時間以上の連続発電が可能であることを実証した。

作動温度拡大による燃料電池モジュールの高出力化 出典:産総研

 今回の研究成果を応用して、100W級燃料電池モジュールと小型で高出力の燃料電池システムを試作した。電極内部で燃料を改質したことにより、650℃以上の高温でも発電ができるようになった。同等サイズにおける燃料電池モジュールあたりの出力は、従来品の数十W級に対して、開発品は100W級に向上した。この燃料電池モジュールを複数個設置すれば、数百ワット〜数キロワット級の燃料電池システムに出力を拡張することができる。

 開発した燃料電池システムは、電極内部で燃料の改質を行うことができ、起動用バーナーも搭載している。このため、外部に改質器や起動用電源を用意する必要はなく、非常用電源としての用途に加え、ロボットやドローンなどの常用電源としても活用することが可能であるという。

 研究グループは今後、燃料種のさらなる拡充や燃料電池モジュールの高出力化、耐久性の向上について引き続き検討を行っていく。今回開発した成果については、企業と連携しながら、新たな用途開拓に向けた実証実験に取り組む予定だ。

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