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近接場結合を用いた3D集積、電力効率の1桁改善を慶応大の黒田忠広氏が語る(2/2 ページ)

» 2017年03月01日 10時40分 公開
[庄司智昭EE Times Japan]
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積層メモリを革新するTCIとHDSV

 黒田氏が電力効率の改善へ提案するのは、チップやモジュールの接続をTSVやコネクターなどの機械式から、電子式の「近接場結合」による3D集積へと変えることだ。「Suica」など電子マネーに用いられている近接場は、移動通信などに用いられる遠方場と比較して、少し距離が離れると急激にエネルギーが減衰するため通信距離が短い。しかし、あまり飛ばないために混信せず、見えない配線があるかのように対象へ届く特長を持つ。

 黒田氏らの研究グループは、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(CREST)の助成を受けて、近接場結合を用いた集積技術の開発を行ってきた。それが「TCI:ThruChip Interface」と「TLC:Transmission Line Coupler」となる。

「TCI」と「HDSV」の概要 (クリックで拡大) 提供:黒田忠広氏

 TCIは、磁界結合を用いた積層チップ間通信である。黒田氏は「磁界は、配線や基板があったとしても、チップの中をきれいにすり抜ける」と語る。TCIはウエハー工程の中で、標準CMOSチップの多層配線を巻くだけのため、追加のプロセスが必要なTSV(シリコン貫通ビア)と比べてコストメリットが高い。設置場所にも制約がなく、転送速度もTSVの2倍以上とする512Gバイト/秒、通信電力も低いとメリットを強調する。

 黒田氏は「電源はどうするのかと聞かれるが、貫通電源をインプラで低コストに作る『HDSV:Highly Doped Silicon Via』の実現性を検証している」と語る。公式Webサイトによると、HDSVでは高濃度で深い不純物ウェルを用いて積層チップに給電する。シリコン基板を十分に薄くすると、不純物ウェルが高濃度のまま裏面に到達するため、裏面側のチップとオーミック接合ができるという。「TCIとHDSVを組み合わせることで、メモリが容易に積層可能となり、電力の大幅な削減が期待できる」(黒田氏)

従来の製造方法による積層メモリと、「TCI」と「HDSV」を用いた積層メモリの性能比較。大幅に薄型化できるだけでなく、NAND型フラッシュメモリの場合は1ビット当たりのI/Oエネルギーは400分の1以下、DRAMの場合は10分の1以下と大幅な電力削減が期待できるという (クリックで拡大) 提供:黒田忠広氏

電力効率の1桁改善を目指す

 TLCとは、電磁界結合を用いた非接触のコネクターとなる。隣接した並行する信号の影響で発生するクロストークノイズを活用することで、非接触のコネクターを実現。伝送速度は、最大12Gビット/秒を超えるという。通信距離の増加や、インピーダンスの整合が取れるため広帯域であるといった特長を持つ。非接触にしたことで、防水や防じんなどの耐性も強くなり、「ディペンダビリティを損なわない」と黒田氏は語る。

「TLC」の概要と、その検証結果 (クリックで拡大) 出典:黒田忠広氏

 黒田氏は、最後に「電力効率の改善なくして、性能の改善はない。そのためには、低電圧化と低容量化が求められる。最先端の研究では、低リークなデバイスとディペンダブルな回路システムで0.3Vを目指している。加えて、今回紹介したTCIとTLCを用いたチップとモジュールの3D集積により、電力効率の1桁改善を目指す」とまとめた。

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