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東工大ら、スピン電荷分離現象を直接観察スピン分解オシロスコープ実現

東京工業大学(東工大)らの共同研究グループは、時間軸で電荷信号とスピン信号の両波形を計測できる「スピン分解オシロスコープ」を実現した。これを用い、「朝永−ラッティンジャー液体」におけるスピン電荷分離現象を初めて直接観察した。

» 2017年03月27日 09時30分 公開
[馬本隆綱EE Times Japan]

プラズモニクスとスピントロニクスを融合した新素子開発に道筋

 東京工業大学(東工大)理学院物理学系の橋坂昌幸助教と藤澤利正教授、NTTの村木康二上席特別研究員らによる共同研究グループは2017年3月、時間軸で電荷信号とスピン信号の両波形を計測できる「スピン分解オシロスコープ」を実現したと発表した。これを用いて、「朝永−ラッティンジャー液体」におけるスピン電荷分離現象を直接観察することに成功した。

 次世代の高機能半導体素子を実現するため、極めて速い信号処理速度と低消費電力を両立できる技術の研究、開発が進んでいる。こうした中で注目されているのが、高速の信号処理に適した「プラズモニクス」と、低消費電力化に向けた「スピントロニクス」の分野である。プラズモニクスは電子集団の電荷密度の濃淡を信号(電荷信号)として用いる。これに対してスピントロニクスは、スピン密度の濃淡を信号(スピン信号)として用いるという。

 「電荷」と「スピン」が持つ特長を1つの素子に融合することができれば、両方の特長を兼ね備えた半導体素子が開発できるとみられている。ところが、従来の測定手法では、電荷信号とスピン信号の両波形を時間軸で計測することが難しく、これまで新素子の開発は大きく進展しなかったという。

 共同研究グループは今回、素子中の電荷信号とスピン信号の両波形を時間軸で計測できるスピン分解オシロスコープを開発した。スピンの向きによって電子を分別する「スピンフィルター」と、電荷信号を検出することができるナノメートルサイズの「時間分解電荷計」を組み合わせることで実現した。アップスピン電子数とダウンスピン電子数の和が「電荷信号」となり、その差は「スピン信号」となる。また、スピンフィルターを用いて、アップスピン電子のみを「時間分解電荷計1」へ、ダウンスピン電子のみをこれとは別の「時間分解電荷計2」に振り分け、それぞれの波形を時間軸で計測することにより、電荷信号とスピン信号の両波形を直接観測することに成功した。

スピン分解オシロスコープによる電荷信号/スピン信号の測定イメージ (クリックで拡大) 出典:東京工業大学

 今回の実験は、半導体素子中の量子ホールエッジチャネルを用いた。2つの波束状の信号を異なる時間に検出することで、電荷信号とスピン信号が異なる速度で伝搬する状況を明らかにしたという。同様な試料中における単独の電子に比べて、電荷信号の速度は約30倍、スピン信号の速度は約3倍になることが分かった。

スピン電荷分離現象の測定例。左はアップスピン電子集団(波束)入力時の測定結果、右はダウンスピン電子集団(波束)入力時の測定結果 出典:東京工業大学

 共同研究グループは、2014年に「朝永−ラッティンジャー液体」の励起素過程の観測に成功している。今回は、「朝永−ラッティンジャー液体を象徴するスピン電荷分離現象についても、世界で初めて直接観察することに成功した」と主張する。1次元伝導体(カーボンナノチューブなど)においては、電荷またはスピンを運ぶ電子集団の運動が支配的となる。この電子集団を「朝永−ラッティンジャー液体」と呼び、朝永振一郎博士とホアキン・マズダク・ラッティンジャー博士によって理論が構築された。さまざまな1次元伝導体でその存在が確認されているという。

 今回の研究成果は、プラズモニクスとスピントロニクスの利点を融合させた、「スピンプラズモニクス」と呼ばれる新しい技術の創出に弾みをつけるとみられている。

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