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ムーアの法則、半導体業界はどう捉えるべきか(前編)技術開発の指針の役割は終えた?(2/2 ページ)

» 2017年05月12日 11時30分 公開
[Junko YoshidaEE Times]
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Silicon 2.0、Silicon 3.0時代

 Lu氏はもともと、IBM Research Divisionにおいて研究キャリアをスタートさせ、1974年に「スケーリング則」を提案したR.H. Dennard(ロバート・デナード)氏と、密接に仕事をしてきたという。Lu氏は、2016年11月7日に富山県で開催された「A-SSCC 2016(IEEE Asian Solid-State Circuits Conference)」において、「A New Silicon Way」と題する論文を発表している。

 同氏はこの論文の中で、半導体業界が現在、ムーアの法則を実際にどのように位置付けているのか、そしてこの先に何が起こり得るのかについて、説明している(関連記事:ムーアの法則の“新たな意味”とは)。

IBMのロバート・デナード氏が1974年に発表したスケーリング則(左)と、Intelのゴードン・ムーア氏が1975年に発表した“ムーアの法則”(クリックで拡大)

 Dennard氏は、1974年に発表した共同執筆論文の中で、「トランジスタサイズが縮小するにつれて、1ノード当たりの電力密度は1世代ごとに、集積回路全体の消費電力量を大幅に増加させることなく向上していく。しかし、このような現象は最終的に、2005〜2007年に限界に達するだろう」と述べている。一般的なプレーナ型トランジスタのピッチを、1世代ごとに0.7倍に微細化するという、Dennard氏のスケーリング則の基礎を構築する法則の実現に執着してきた結果、現在ではリーク電流の増加という難題に直面するようになった。リーク電流が増加すると、特に28nm以降のプロセス技術では、半導体チップが過熱してしまうのである。

 Lu氏は、「Dennard氏のスケーリング則と同様に、ムーアの法則もその当時、事実上の終えんを迎えていたはずだった」と主張する。

 「ムーアの法則は28nmプロセスで終えんを迎える」という主張は、決して新しい見解ではない。例えば、MonolithIC 3Dの創設者であるZvi Or-Back氏は以前から、「半導体業界は、28nmプロセス以降も引き続き、トランジスタの小型化を実現することはできるが、コストが増大していくことになる。このためムーアの法則は、28nmプロセスを最後として終わりを迎えることになるだろう」と主張してきた。

 一方Lu氏は、「ムーアの法則は、形骸化しながらも継続していくとみられる」と述べている。

 Lu氏の見解によると、ムーアの法則がこれまで存続してきたのは、Intelがトライゲート構造のトランジスタを開発したためだという。Intelの開発チームは、22nmプロセス技術への移行時に、フィン構造のトランジスタ、いわゆるFinFETを開発し、ゲート面積の拡張に成功したのだ。

 Lu氏は、FinFET登場以降の時代を、「Silicon 2.0」と呼ぶ。Silicon 2.0時代の半導体メーカーは、既存のプレーナ型トランジスタを、新しいトライゲート構造のトランジスタに置き換えていく。

 メモリチップメーカー各社も単位面積の微細化に着手し、東芝が48層の3D(3次元) NAND型フラッシュメモリを開発した他、Samsungも64層の3D NANDフラッシュを開発している。Lu氏は、「半導体メーカーは、3Dを実現することにより、適用技術は32nmプロセス程度でありながら、実質的には13nmプロセスに相当する技術を達成したのだ」と説明する。

 Silicon 2.0は、3Dトランジスタと3Dセル構造のいずれかによって実現された時代だといえる。

 Silicon 2.0時代には、22/20nmから7nmへと技術ノードが進んだが、SiP(System in Package)やMCM(マルチチップモジュール)、3D積層などの新しい技術の開発も進んだ。Lu氏はこれを、「容量面での微細化」として「Silicon 3.0」と呼んでいる。

 Silicon 3.0時代は、異種統合というコンセプトにより、特にさまざまな技術を適用して半導体チップを積層するという点で、前途有望だといえる。Silicon 3.0時代には、シリコン材料とノンシリコン材料とを純粋に統合し、シリコンを中心としたナノシステムの構築の実現が進むかもしれない。

(後編に続く)

【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】

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