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31年目にして最大の進化を遂げた「LabVIEW」 〜 生みの親に聞くLabVIEWのこれからLabVIEW NXGが誕生

リリースから31年目を迎えたNational Instrumentsのシステム開発ソフトウェア「LabVIEW」は、年次カンファレンス「NIWeek 2017」において、新バージョンとして「LabVIEW NXG 1.0」と「LabVIEW 2017」の2つを発表し、参加者を驚かせた。LabVIEWはなぜ2つに分かれたのか、今後のLabVIEWはどうなっていくのだろうか。

» 2017年06月27日 10時00分 公開
[PR/EE Times]
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 National Instruments(ナショナルインスツルメンツ、以下NI)のGUIを備えたシステム開発ソフトウェア「LabVIEW」は、NIが創業以来本社を置くテキサス州オースチンで開催するテクニカルカンファレンス「NIWeek」で、ここ何年も毎年新バージョンを発表してきた。NIの共同創業者の1人で同社フェローのJeff Kodosky氏が開発し1986年に発表した「LabVIEW 1.0」は、それまでシステム全体が筐体に収められ、それぞれが独立して使われていた計測器のハードウェア部分とソフトウェア部分を分離し、ハードウェア部分を接続したコンピュータにインストールしたソフトウェアによって、データ収集や解析、その自動化も可能にした画期的なツールだ。

 LabVIEWはリリース以来、データフローコンパイラやFPGAプログラミング機能の実装など、数度の大きな機能追加を経ながらも、ずっと1つのソフトウェアとしてバージョンアップを積み重ねてきた。そのLabVIEWが、31年目にして「LabVIEW NXG 1.0」と「LabVIEW 2017」の2つに分かれると発表されたことは、NIWeek 2017に参加した開発者やパートナーに大きな驚きと、そして若干の戸惑いをもたらしたかもしれない。

「LabVIEW NXG 1.0」起動画面。「ハードウェアを検出」パネルをクリックすると、接続されているハードウェア構成を自動認識する。「NIDAQ」などデータ収集製品とサードパーティーの箱形計測器の大半をサポートしている。

 誤解のないよう始めに断っておくと、「LabVIEW NXG 1.0」と「LabVIEW 2017」はどちらも「LabVIEW 2016」の次のバージョンであり、2本まとめて1つのパッケージで提供される。価格体系はこれまでと同様で、2本になるからといって値上げされているわけではない。パッケージを購入すれば「LabVIEW NXG 1.0」も「LabVIEW 2017」も自由に使える。従来のLabVIEWユーザーにとっては「LabVIEW 2017」に「LabVIEW NXG 1.0」が付いてくる感覚だろうか。

 それではNIのエコシステムのうち、最もユーザーに近い部分であるLabVIEWを2つに分ける理由と、LabVIEWの将来について、NIWeek 2017の基調講演と、NIでLabVIEWを含むソフトウェアプラットフォームを担当するJeff Phillips氏へのインタビューを基に解説する。

計測をシンプルに行えるよう、イチから作りあげた「LabVIEW NXG」

Jeff Phillips氏はLabVIEWの開発の重要ポストを歴任した人物。「LabVIEWNXG」はイチから開発することで、従来のLabVIEWと比べ、新しい技術や機能を効率よく実装できると話す。

 基調講演で“LabVIEWの父”Jeff Kodosky氏は、LabVIEW開発の基本的な考えとして“不可能なことを可能にする”ことと“一般的なことを簡単にする”を示したが、これまではこの2つのうち“不可能なことを可能にする”という面が強調されてきたという。そこで、原点に戻るかたちでもう一方の“一般的なことを簡単にする”という点に注力したのが「LabVIEW NXG」だと開発の経緯を説明した。LabVIEWユーザーにとっての“一般的なこと”“日常的なこと”とは何かと言えば、データ計測と解析である。

 LabVIEWは単なるプログラミング言語ではなく、ユーザーはLabVIEWでプログラミングすることでインスピレーションを得られ、よりよいイノベーションをしたいと思わせる環境だとKodosky氏は話す。LabVIEWのこれまでのバージョンアップは、より複雑なアプリケーションが開発できるための機能強化が中心であり、これまでLabVIEWを起動してからデータ収録を開始するまでの部分を簡単にしようとする製品は「LabVIEW 7 Express」以降あまりなかったという。

 LabVIEWでデータ収集や解析をするには、これまではまずLabVIEWにデータ収集ハードウェアなどテストシステムの構成をプログラミングする必要があった。このプログラミングは決して難しいものではなく、慣れればすぐにできるものではあるが、LabVIEWを起動して“すぐに”計測を始めることはできなかった。「LabVIEW NXG」が従来のLabVIEWと最も大きく異なるのはこの点においてである。

 「LabVIEW NXG 1.0」はNIのデータ収集(DAQ)製品群と、サードパーティーの箱形計測器の設定に必要な情報を内部に持っており、「LabVIEW NXG 1.0」を立ち上げたコンピュータにハードウェアをつなぐだけで、システムのハードウェア構成を自動的に認識して、データの計測を“すぐに”始めることができる。計測開始までどのくらい簡素化されるかは計測システムの構成にもよるが、一例を挙げる。NIのベテランエンジニアが、「NI DAQ」から信号を読み取るという作業を行ったところ、「LabVIEW 2017」ではLabVIEW起動からデータ収録開始まで約30秒、マウスで18回のクリック(プログラミング込み)が必要だった。これに対して「LabVIEW NXG 1.0」は、起動からデータ収録開始までわずか4秒。クリックも表示されるものを選んでいけば、たった3回のクリックだけで済むのだ。その差の26秒をどう感じるかだが、1日に何度も使うツールで目的の計測がすぐできることのメリットはかなり大きいといえるだろう。

「LabVIEW 2017」(左)と「LabVIEW NXG 1.0」(右)で同じプロパティを変更しようとした場合の比較。「LabVIEW 2017」ではメニューバーの深い階層まで掘り下げなければならないのに比べ、「LabVIEW NXG 1.0」は1つのパネルにまとめられており見通しが良い。

 簡単になったのは計測開始までにとどまらない。基調講演では24チャンネルの熱電対から収集されるデータを、マウスでクリックしていくだけでインタラクティブに目的に応じてさまざまな形に加工して表示したり解析したりするデモンストレーションを見せた。これも従来のLabVIEWならばエディタを使ってプログラミングする必要があるところだ。

 5年ほど前から検討を始めたという「LabVIEW NXG」にはもう1つ、これまでのLabVIEWにはなかったこともある。「LabVIEW NXG」開発だけのために、「ユーザーエクスペリエンス・デザイン」という、ユーザーインタフェース全般のデザインチームを設けたのだ。従来はLabVIEWに新しい機能を追加するときは、それを担当する開発チームが、LabVIEWのどこに機能を追加すべきか、どのようなインタフェースにするかなどを決めていたため、機能ごとに統一性がなく矛盾も生んでいた。ユーザーエクスペリエンス・デザインチームは、ユーザーがどのように開発環境に触れているかを調査し、どこに何を配置すると使い勝手が良くなるか統合的に考えて「LabVIEW NXG」の操作環境をデザインした。LabVIEWのプログラミングで使われるVIや演算子などのアイコンサイズ、エディタ上に配置したときのレイアウトなども見直し、きれいで見通しの良いブロック図になるよう隅々まで作り込んだ。プロパティの変更などインタラクティブな部分は、ユーザーが期待した動きになるように調整している。

「LabVIEW 2017」(左)と「LabVIEW NXG 1.0」(右)による、同じ計測システムのブロック図の比較。アイコンなどのデザインやメニューの位置の違いがよく分かる。

 従来のLabVIEWにない「LabVIEW NXG」の特長としては、接続したハードウェアの自動コンフィギュレーションに加えてそのハードウェアのマニュアル類を内蔵し簡単に参照できること、単にヘルプページを表示するのではなく状況に応じて動画なども交えたインタラクティブでメディアリッチなヘルプ機能などがある。これら新機能の多くは昨年の「NIWeek 2016」でテクニカルプレビューとして、特に力を入れて開発しているとしていたもので、それらが早くも実装された形だ。

 NIでは、従来版LabVIEWについても開発を続けるが、「LabVIEW NXG」の開発により多くのリソースを配分し、従来版LabVIEWよりも速いペースで改善を続けていくと話していて、次期バージョンの「LabVIEW NXG 2.0Beta」の提供も開始している。2.0Betaでは「LabVIEW NXG」で書いたコードの管理や配布を容易にするパッケージマネージャーや、「LabVIEW NXG」上でブロック図を書くようにハードウェアコンフィギュレーションができるシステムデザイナーなどが追加される。

なぜいま「LabVIEW NXG」なのか?

 ではなぜNIは「LabVIEW 2017」ではなくそれとは別のソフトウェアとして「LabVIEW NXG」をリリースしたのだろうか。また2つのLabVIEWの1本化についての考えはどうか、Software Product Marketing, Section ManagerのJeff Phillips氏に尋ねてみた。

――「LabVIEW NXG 1.0」を「LabVIEW 2017」と平行してリリースしたのはなぜか?

Phillips氏 「LabVIEW NXG 1.0」は「LabVIEW 2017」と比較すると(FPGAの対応など)まだ足りない機能があるのは認識している。しかし、いまの状態でもプログラミングをあまり必要としないエンジニアやリサーチャーなど「LabVIEW NXG」を使っていただけるお客様がいることは分かっていたのでリリースすることにした。

 「LabVIEW NXG」の開発に当たっては、完全な状態のものをはいどうぞと提供するのは、ソフトウェアの開発から考えても、ユーザーであるエンジニアの立場からしてもリスクが高すぎる。そのため、まずスケートボードを作って次にスクーター、そこから電動バイクというように、徐々に関連性のあるコンポーネントを追加しながら最終形態に持って行くというアプローチを取っている。

――「LabVIEW NXG」はどんなユーザーが使うと想定しているのか。

Phillips氏 まず、プログラミングをしたくないなどの理由で現在LabVIEWを使っていないエンジニアに使ってもらえると考えている。ただ、そうした新しいユーザーだけを狙っているのではなく、LabVIEWになれた既存のアドバンスユーザーであっても、ワークフローの一環としてプログラミングなしに対話的にデータを取ることは必要なはずで、そのような場合に非常に良く適用できるだろう。

――「LabVIEW」と「LabVIEW NXG」はいずれ1つになるのか。

Phillips氏 「LabVIEW」と「LabVIEW NXG」では、「LabVIEW」と「LabVIEW NXG」を組み立てる技術のアプローチが異なるので、同じ機能を両方に追加していくようなことは非常に難しい。「LabVIEW NXG」により積極的に投資して開発を進めることで、現行の「LabVIEW」ユーザーにも「LabVIEW NXG」を使ってもらう機会が増えると考えている。NIは「LabVIEW」と「LabVIEW NXG」をいつマージするかというスケジュールを決めることはしない。ユーザーの大多数が「LabVIEW NXG」の方がいいと感じるようになったとき、マージすることを検討する。

「LabVIEW」と「LabVIEW NXG」について


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提供:日本ナショナルインスツルメンツ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2017年7月26日

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NIWeek2017 レポート

リリースから31年目を迎えたNational Instrumentsのシステム開発ソフトウェア「LabVIEW」は、年次カンファレンス「NIWeek 2017」において、新バージョンとして「LabVIEW NXG 1.0」と「LabVIEW 2017」の2つを発表し、参加者を驚かせた。LabVIEWはなぜ2つに分かれたのか、今後のLabVIEWはどうなっていくのだろうか。

「5G」に欠かせない要素技術の1つが、超広帯域通信を実現できるミリ波帯の活用である。だが、これまでミリ波帯は、モバイルネットワークには不向きだと考えられてきたため、電波の挙動のデータが少ないのが実情だ。5Gの商用化が迫り、ミリ波通信のテスト環境をどれだけ短期間で構築できるかが課題になる中、ソフトウェア無線がその解となりそうだ。

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