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反強磁性体で巨大な異常ネルンスト効果を発見磁性体で熱電変換を可能に(1/2 ページ)

東京大学らの研究グループは、反強磁性体マンガン合金で、自発的な巨大熱起電力効果が現れることを発見した。素子構造が比較的単純で、集積化により高出力を実現することも可能となる。

» 2017年07月26日 13時30分 公開
[馬本隆綱EE Times Japan]

既存の磁性体に比べ、磁化当たり100倍の熱起電力

 東京大学物性研究所の冨田崇弘特任研究員とムハンマド・イクラス大学院生、中辻知教授らの研究グループは2017年7月、理化学研究所創発物性科学研究センターの計算物質科学研究チームと協力し、反強磁性体マンガン合金(Mn3Sn)で、自発的な巨大熱起電力効果が現れることを発見した。効率の高い熱電変換材料として期待される。

 現行の熱発電素子には非磁性体の半導体が一般的に用いられている。ところが、この材料だと製造工程が複雑となり、製造コストに課題があった。そこで研究グループは今回、熱電変換材料に金属磁性体を用いた。磁性体を用いると、温度差以外でも磁化に比例した熱起電力が生じる。ところが、これまでは磁化の強い強磁性体材料でないと実用的な熱起電力は生じないと考えられていた。

 こうした中で研究グループは、磁化の小さい反強磁性体Mn3Snでも、強磁性体と同等かそれ以上の熱起電力が生じることを初めて発見した。この現象は「仮想磁場」と呼ばれる新しい物理概念によるものだという。仮想磁場はおよそ数百T級に相等、磁化の小さい物質でも、熱流と一緒になることで巨大な熱起電力が得られたとみている。しかも、仮想磁場は磁化とともに自発的に生じるため、温度勾配を与えるだけで熱起電力が現れるという。

左は反強磁性体Mn3Snでのゼロ磁場での自発磁化、ネルンスト電圧、温度差の方向。右は磁場とネルンスト電圧の関係を示すグラフ 出典:東京大学、理化学研究所、科学技術振興機構(JST)

 さらに、Mn3Snの巨大な熱起電力は、室温付近もさることながら、温度を下げることで上昇し、−70℃(200K)で最大値を示した。これは室温に比べて4倍以上の数値となる。既に報告されている強磁性体の数値に比べても同等かそれ以上で、磁化当たりでは100倍以上となった。

さまざまな磁性体の磁化の大きさと、それに対するネルンスト効果を示すグラフ 出典:東京大学、理化学研究所、JST

 Mn3Snは、カゴメ格子と呼ばれる三角ベースの結晶構造となっている。この時、隣り合うスピンが互いに反対方向に向かおうとする力が働くと、三角形の3つの頂点が互いに120度傾いた状態となり安定する。ただし、スピンの向きなどはいくつかの種類がある。磁化は磁場を取り除いても自発磁化として残る。耐熱度は、Mn3Snの反強磁性転移温度と同程度の160℃(420K)である。

反強磁性体Mn3Snの結晶構造と磁場中での磁気構造 出典:東京大学、理化学研究所、JST
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