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検出精度80%以上、コンクリートひび割れ点検AI作業時間を10分の1に短縮(1/2 ページ)

実用に足る性能を発揮するコンクリートひび割れ点検AI(人工知能)システムが誕生した。同システムは教師あり学習とディープラーニングを併用しており、表面に汚れや傷がある状態でもコンクリートのひび割れを80%以上の精度で検出できる。システムが完成した暁には、ひび割れ点検にかかる時間が従来の10分の1となる見込みだ。

» 2017年08月07日 13時30分 公開
[辻村祐揮EE Times Japan]

汚れや傷などをひび割れと誤認識しない

 産業技術総合研究所(AIST)、東北大学、首都高技術は2017年8月3日に都内で会見を開き、表面に汚れや傷がある状態でもコンクリートのひび割れを80%以上という実用レベルの精度で自動検出できるAI(人工知能)システムを、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトで開発したと発表した。同システムの活用により、ひび割れ点検にかかる時間を従来の10分の1に削減できる見込みという。

開発技術でひび割れを検出する様子 出典:NEDO(クリックで拡大)

 同プロジェクトでは2014年から、機械学習を活用したコンクリートひび割れ点検システムの開発を進めてきた。システムや画像認識技術の開発はAISTが務め、東北大学と首都高技術は学習に必要なサンプル画像の収集を担った。東北大学は開発技術の評価も担当した。開発したシステムにはディープラーニングの他に教師あり学習も採用し、サンプル画像から点検熟練者が作成した多数の教師データを学習させた。

点検熟練者が作製した教師データ 出典:NEDO(クリックで拡大)

 AISTらが開発したAIシステムは、学習した教師データがサンプル画像600枚分に及び、デジタルカメラやスマートフォンなどで撮影したコンクリートの画像から、ひび割れの箇所を完全に自動で検出できる。その検出精度は、0.2mm以上のひび割れに対してであれば、実用化の目安となる80%以上に達する。道路橋のコンクリートに対しての実験で、81%の精度でひび割れを検出できることが確認された。

 従来の自動検出技術の検出精度は約12%にすぎない。画像にモノクロ処理を施し、白黒の濃淡からひび割れを検出するため、正確な画像認識が困難だからだ。首都高技術の技術部長である森清氏によると、従来の自動検出技術は傷や汚れ、雨水や排水でぬれた箇所とぬれていない箇所の境目などを、ひび割れとして誤認識することが少なくないという。

新技術と従来技術のひび割れ検出精度の違い 出典:NEDO(クリックで拡大)

 一方、AISTらのAIシステムは、コンクリートの表面に傷や汚れなどがあっても、高い検出精度を発揮する。その性能を示すため、AISTらは記者会見でデモを実施した。デモでは、チョークの汚れがあり、水にぬれたコンクリートの画像を撮影し、その画像からコンクリートのひび割れだけを検出してみせた。

ALTALT デモ用のコンクリート。チョークの汚れがあり、水でぬれているが(左)、誤認識せずにひび割れを検出。赤い線がひび割れ(右)出典:NEDO(クリックで拡大)

 従来技術の検出精度が実用の水準にないため、コンクリートのひび割れ点検作業は現状、全て手作業で行っている。野帳にひび割れ状況をスケッチし、それを事業所に持ち帰りCAD化するという、手間のかかる工程を踏むため、総作業時間は約300分にも及ぶ。一方、AISTらのAIシステムを活用した場合、点検にかかる時間は約30分にまで短縮できる見込みだ。

手作業とAIシステムにおける作業時間の比較 出典:NEDO(クリックで拡大)
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