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「非正規雇用」の問題は、「国家滅亡に至る病」である世界を「数字」で回してみよう(42) 働き方改革(2)(10/11 ページ)

» 2017年08月16日 11時30分 公開
[江端智一EE Times Japan]

「正規 VS. 非正規」という内乱

 それでは、今回のコラムの内容をまとめてみたいと思います。

【1】政府主導の「働き方改革」の重要項目の1つである「非正規雇用」について考えてみました。

【2】まず「非正規雇用」とは、(a)雇用期間の定めがあること、(b)労働賃金以外の保証がないことと定義した上で、「非正規雇用」が必ずしも悪いことだけではなく、雇用する側にも、雇用される側にもメリットがあることを示しました。

【3】「非正規雇用」が、いわゆる「小売業」の発生に起因していることと、ここ100年くらいの日本において、「非正規雇用」は、時代と共に、名を変え、内容を変えながら、常に存在し続けていたことを明らかにしました。

【4】さらに「非正規雇用」と「正規雇用」の間の賃金格差を正当化する根拠として、「能力」という考え方があることを示した上で、その「能力」なるものが定量化できない、かなりいい加減なものである上、さまざまな分野で乱用されていることを、江端の思考実験などを含めて説明しました。

【5】さらに、その「いい加減な"能力"」なるものを前提とすることで、「働き方改革」の唱えるスローガンである「同一労働、同一賃金」にある「同一労働」なるものが、現実には存在し得ないことを明らかにしました。

【6】パソコンの中に、「バーチャル株式会社 エバタ」を設立して、非正規社員を採用する/しないの2つのシミュレーションを実施してみた結果、非正規社員の存在が「株式会社 エバタ」と「エバタに務める正規社員」にとって極めて有利に機能する一方で、「非正規社員」にとっては大したメリットにならないことが分かりました。

【7】「非正規雇用」は、非正規雇用の人々の犠牲を前提として、現在の日本において有効に機能する方法であることを認めた上で、なお「非正規雇用」が、わが国を最終的に滅亡させかねない恐しいポテンシャルを有していることを、「格差」という観点からまとめました。

【8】「非正規雇用」を解決できない最大の理由が、「(私を含み)変化を嫌がり、行動しない私たち自身」にあることを、具体的に説明しました。


 さて、私は、この「非正規雇用」の問題について、ここひと月の間、調べ続けてきたのですが、「非正規雇用」問題を解決するために、何か具体的に動いているかというと、正直なところ、『何もやっていない』です。

 ここ数年から数十年の間は、江端家には大きな不利益はなさそうだからです。「非正規雇用→格差拡大→労働意欲喪失→国家滅亡」に至る時には、私は多分、この世にいないでしょう。

 今、現在、そして将来、さらに悪化を続ける、少子高齢化の世間にあっては、私のように考える人が、マジョリティー(多数派)になりますので、この問題を政治的に解決することは、さらに難しくなってくると思われます。

 しかし、このような状況を打開できる可能性が全くない、とも思っていません。

 以下の図は、ここ30年くらいの、非正規労働者の比率の推移(青色)と、その推移から算出した回帰直線(赤色)を記載したものです。

 現在、政府は「働き方改革」で、非正規雇用の待遇改善によって、正規雇用との格差を減少させようとしていますが、私は、もう1つの手段として「放置」を提案してみたいと思います。

 現在の調子で、非正規労働者が増加し続ければ、2030年ごろに、非正規労働者が、正規労働者の数を上回ります。そうなれば、当然、既存の政党、政府は、非正規労働者の意見を反映せざるを得ない政策に転換する必要に迫られます。場合によっては、非正規労働者による新党が結成されて、政権奪取する可能性も視野も入ってきます。

 そうなれば、OECDからの勧告(正規労働者の保護を弱めて、非正規労働者の保護を厚くする)を受け入れるのはもちろんとして、労働法の抜本的な改正 ―― つまり、この「働き方改革」の唱える「(B)「非正規」という概念の撤廃」が、本当に実現するかもしれません。


 その一方で、『もしかしたら ―― 』とも考えてしまうのです。

 民主的な選挙による平和的な政権移行ができるか、どうにも私には確信が持てないのです。どうしても私は「非正規労働者 vs. 正規労働者」という対立で、日本国内が内乱になるような事態を考えてしまうのです。

 あえて説明すると、

  • 嫁さんと2人の娘が「"非正規労働者"自由同盟軍」のゲリラ部隊に所属していて、
  • 私が「"正規労働者"帝国軍、(株)○○製作所 大隊」総司令部に士官として所属していて、
  • 嫁さんの率いるゲリラ部隊と、私の指揮下で作戦を実行する部隊が、
  • 本社ロビーで、銃撃戦を展開する

―― という戦闘シーンが、どうしても思い浮かんできてしまうのです。

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