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» 2017年09月21日 11時30分 公開

Over the AI ―― AIの向こう側に(15):心を組み込まれた人工知能 〜人間の心理を数式化したマッチング技術 (12/13)

[江端智一,EE Times Japan]

「愛のマッチング」は絶望的に難しい

 しかし、

  • 恋愛・婚活に関しては、ネットサービスだけに限定しても、利用者数1000万人にも及ぶ、肥沃な市場があります。
  • 結婚率の向上は、政府の政策課題のトップリストに上げられています(結構な予算も付いている)。

 そして、

 ここからいえることは、"マッチング技術"は、工学、コンピュータ科学、生物学、心理学、経済学、経営学、政治学、法学、社会学、人類学にまで適用されているのにもかかわらず、恋愛・婚活のフィールドについては、まったくロクな成果を上げていないという厳然たる事実です。

 私はこの原因についての仮説を2つ上げたいと思います。

 1つ目は、スマホです。私たちは、ネットサービスの利便性に「目くらまし」されているのではないかと思うのです。「出会い(マッチング)」をコンピュータとネットワークで最適化したことによって、私たちは「『出会い』のチャンスの獲得」に技術的に成功した、と勘違いしているのではないでしょうか。

 もし、そうだとしたら、『スマホ(のマッチングサービス)こそが、昨今の恋愛戦や婚活戦を連敗に導いている最大級の戦犯である』という皮肉な結論に至っていると思えるのです。

 2つ目は、「感情」を汎用化し過ぎてしまった、ということです。冒頭部の、平塚先生のセリフ『馬鹿者。感情が計算できるならとっくに電脳化されている。……計算できずに残った答え、それが人の気持ちというものだよ』に関して、今でも私は、現在の"マッチング技術"で、感情の計算も電脳化もできていると確信しています。

 しかし、なお、『「恋愛」や「結婚」ついては、現状の"マッチング技術"の取り扱うことのできる「感情」の中に含めることができない』という事実を、やはり、私は、認めなければならないと思うのです。

 つまり、

―― 「愛」をマッチングすることは、絶望的に難しい

ということです。


 それでは、今回のコラムの内容をまとめてみたいと思います。

【1】冒頭にて、「今の時代は、恋愛がラクチンでいいよな」という江端のコメントから、いきなり飲み会会場で「若手研究員による、江端糾弾集会」が実施されて、江端はその発言の撤回と謝罪を余儀なくされた、というお話をしました。

【2】今回の連載では、マッチング技術の中でも、特に、「人間の存在と意思を含むマッチング技術」について解説を致しました。そのような"マッチング技術"(かっこつき)とは、詰まるところ、「人が人の財産を○○する」ということであると看破し、分配/換金/活用/創作の4点でカテゴリー化ました。

【3】"マッチング技術"を構成する3つの理論として「ゲーム理論」「オークション理論」「行動経済学」があることを述べ、これらの論理が、人間の心理を数式として組む込むことに成功していることおよび、従来のAI技術には見られない、広い分野での応用・成功事例を有している珍しいものであり、加えて、ノーベル賞を量産していることを明らかにしました。

【4】BC500年ころの、バビロニアでの「妻」のオークション事例を用いて、オークション理論の基本原理について説明しました。そして、私たちの婚活戦略も、つまるところオークションそのものであり、オークションの「価値の可換性」から、多様な婚活戦略を採り得ることを併せて説明しました。

【5】オークションの分類を簡単に紹介し、その中でも、(1)公開入札の値上げ方式と、(2)封印入札の第二価格方式について、サザビーズのオークションと、ヤフーオークションを例に、その違いを説明しました。特に「第一価格」と「第二価格」という重要な概念について、詳解しました。

【6】オークション理論の至宝であり、久々に私を震撼させた、Vickrey-Clarke-Groves(VCG)メカニズムを、「江端週末レンタル問題」という事例を作って、具体的な数値を使って説明しました。

【7】後輩のFさんのインタビュー結果より、現在のネット婚活について、その概況を纏めました。さらに、ネット婚活が、少なくとも、既存の"マッチング技術"のアプリケーションと比較して、ほとんど有効に機能していないことを確認し、その原因として「スマホの存在」と「『愛』のマッチングの困難性」があるのではないかという、江端仮説を紹介しました。


以上です。

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