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モノマネする人工知能 〜 自動翻訳を支える影の立役者Over the AI ―― AIの向こう側に(16)(6/10 ページ)

» 2017年10月30日 11時30分 公開
[江端智一EE Times Japan]

自動翻訳の技術的課題

 ここからは後半になります。この連載の後半は、「私の身の回りの出来事」を使った、「数式ゼロ」のAI解説になります。

 本日は、前半に引き続き「自動翻訳技術」についての概要をお話したいと思います。

 自動翻訳技術は、1947年にさかのぼります。これはコンピュータの発明とほぼ同時期から始まっており、そして、今なお、人類が求め続けている、究極のコンピュータアプリケーションの1つです。

 自動翻訳の技術的課題とは、つまるところ「ズレ」です。

 1980年代前半までは、これらのズレを、ロジック ―― いわゆる文法(グラマー)から解決しようとする試みがほとんどでした。

 もし「言語」というものがプログラムのように厳密かつ精緻に使われるものであるのなら、このアプローチで、自動翻訳技術は完了していたハズでした。しかし、「言語」の利用分野は、広大なのです。

「英語に愛されないエンジニア」のための新行動論(6):「―実践編(パラダイムシフト)――技術英語はプログラミング言語である」より

 自動翻訳技術に、大きなパラダイムシフトを発生させたのは、IBMが1980年代後半に研究を開始し、1991年に論文を発表した、用例ベース機械翻訳(example-based machine translation:EBMT)技術でした。

 そして、向上し続けるコンピュータの計算能力を使い倒して、力づくで確率計算をする統計的機械翻訳(SMT)技術によって、現在の、Excite翻訳、Yahoo翻訳、Google翻訳、そして冒頭のMicrosoft翻訳という、現在の翻訳エンジンのベースが完成しました。

 つまり、これは、

  • 言語をロジカルなものと考えてはダメだ。翻訳とは詰まるところ『モノマネ』だ」(EBMT技術)
  • 言語の意味(コンテクスト)を理解しようとしては無駄だ。翻訳とは詰まるところ『暗号解読』だ」(SMT技術)

という、1950年代の自動翻訳の研究者から見れば、卒倒しそうになるくらい乱暴なパラダイムシフトが行われ、そして、それが「うまくいった」ということなのです。

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