連載
» 2017年10月30日 11時30分 公開

Over the AI ―― AIの向こう側に(16):モノマネする人工知能 〜 自動翻訳を支える影の立役者 (8/10)

[江端智一,EE Times Japan]

最近の自動翻訳技術から学べること

 しかし、「これで翻訳ができる」と言われても、いまひとつピンと来ないと思いますので、もう少し細かく説明します。

 翻訳アプリは、考えなしに確率計算をしているのではなく、ちゃんとしたモデル化に従って、それをステップごとに実施することで、精度の高い翻訳結果を導いています。

 しかし、ここまで徹底的に確率を使い倒しているのを知ってしまうと、逆に「どん引き」しそうになります。なぜなら、単語の意味を選び出すだけでなく、文節を並べる順番に至るまで、確率(×ロジック)だけに頼っていても ―― そこそこ意味の通る翻訳ができてしまうのですから。

 実際のところ、もし私が、1950年代の自動翻訳の研究員だったら、この結果を知っただけで、首つっちゃうかもしれないなぁ ―― と思えるほどの衝撃でした(本当)。

 しかしながら、私がこれまでの連載でずっと続けてきたように、コンピュータ(の翻訳アプリ)は、翻訳の文章の内容なんぞ理解していませんし、興味もありません。コンピュータは、単なる単語(あるいはフレーズ)の変換と置換をやっているだけなのです。

 そして、最近の自動翻訳技術(EBMT、SMTなど)のパラダイムから、私たち人間が学ぶことがあるとすれば、結局、こういうことになるんじゃないかと思うんです。

 ―― 英語とは、読んで、書いて、聞いて、しゃべる時だけに価値が発生する「道具」であり、英語の勉強そのものには1mmの価値もない


 それでは、今回のコラムの内容をまとめてみたいと思います。

【1】同時通訳をやってくれるアプリを自分のスマホにインストールして、いろいろと実験をしてみた結果、この分野の技術が「ものすごく進化している」ことに気が付きました。

【2】"翻訳"と"通訳"という用語の使われ方を調べてみた結果、"通訳"の使用頻度が低いことが分かりました。そして、国外においては、"AI翻訳"、"AI通訳"という言われ方をされておらず、"機械翻訳"、"自動通訳"という言い方が一般的であることが分かりました。

 これは、"翻訳""通訳"技術開発が、コンピュータの誕生と同時に始まっていたという歴史的背景に因るものだろうという、江端仮説を紹介しました。

【3】これらの"翻訳"アプリなどの出現によって、『AIによる翻訳/通訳の仕事がなくなる』について検討を行い、以下の3つの理由から「その可能性はない」と結論付けました。

(a)現時点の自動翻訳アプリの翻訳は、「意味」は通るものの、「気持ち悪い」翻訳になってしまうことを解決できていないから

(b)翻訳そのものに問題(例:誤訳)がなくとも、翻訳とはトラブルを運命的に発生させてしまうものであり、加えて、これを現状の自動翻訳技術では修正する手段が絶無であるから

(c)現時点の自動翻訳アプリは優れてきているとはいえ、それでも、通常の人間の会話までを、完璧に翻訳できるというわけではない(ことが簡単な実験で分かった)から

【4】自動翻訳技術の技術的課題を紹介して、最近の自動翻訳精度の向上のベースには、「翻訳とは詰まるところ『モノマネ』だ」「翻訳とは詰まるところ『暗号解読』だ」という、パラダイムシフトがあったことと、それらの技術の機能概要について紹介致しました。


以上です。

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