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» 2017年11月24日 11時30分 公開

この10年で起こったこと、次の10年で起こること(20):わずか0.1mm単位の攻防が生んだiPhone X (2/3)

[清水洋治(テカナリエ),EE Times Japan]

観音開きの2枚基板

 iPhone Xで大きく変わったのは電池を2個、搭載するようになったことだけではない。情報&通信の処理基板が観音開きの構造になって2枚重ね合わせになっている(図1右)。

 観音開きの2枚基板はiPhone Xの最大の特徴の1つである。このような構造の基板を用いるスマートフォンは現在皆無であるからだ。ただし、過去の携帯電話の時代には若干厚みのある製品が多かったため、2枚以上の基板を用いるものも多数存在した。

 スマートフォンの特徴は、大きな画面と板のように薄いことである。2枚基板を重ねることは基板部の面積を減らすものの厚み方向を増やしてしまうので、スマートフォンではほとんど用いられていない技術である。iPhone Xでは基板を2枚に重ね、基板の厚みを増やすことになったとしても、実現したい機能があったわけだ。

 それが、顔認証機能である。iPhone Xでは、新たに顔認証用の3Dカメラを装着する面積を確保する必要があった。iPhone Xの基板面積は1880mm2と、iPhone 8に比べておおよそ1割面積が減っている。この減った部分に、従来のインカメラに加えて、3Dカメラを埋め込んでいる。従来の基板形状のままでは、新たなセンサーを埋め込む場所がなかったわけだ。

 図2左は、2層の基板のおのおのに搭載されるチップ機能である。2層の基板のうち一方は通信基板で、もう1つは情報処理基板だ。

図2:図版左側は、2層のPCB基板の内容。右側は、iPhone Xおよび「iPhone 8」のディスプレイの厚さ(クリックで拡大) 出典:テカナリエレポート

 通信基板は、広域通信である2G/3G/LTE、局所通信のWi-Fi/Bluetooth/NFC、位置情報を取得するGNSS(GPSなど)を配置し、さらに通信用のパワーアンプモジュール、オーディオ用のパワーアンプを搭載する。つまり、通信&アンプ基板である。この基板には、ほとんど端子がない。

 一方、情報処理基板には、プロセッサ、センサー群、メモリが搭載され、ディスプレイやカメラに接続するほとんどの端子を持っている。

 スマートフォンの基板では、通信で生じるノイズをセンサーなど敏感なデバイスと分離するために、金属シールドで覆う、配線の経路を変える、距離を離すなど多くの対策がとられている。iPhone Xでは、情報基板と通信基板を完全に分離することで、性格の異なる、情報、通信、アンプ、センサーの「分離」に成功しているわけだ。

 実際、iPhone Xで金属シールドが覆われる場所はわずか2箇所だけだ。iPhone 8のほぼ全面シールド(基板の7割)に比べれば、約8分の1に減っている。それだけノイズに強い構造になったということではないだろうか!!

わずか0.7mmの削減が、2層基板を生んだ

 図2の右はiPhone Xの最大の特長ともいえる有機ELディスプレイ(上)とiPhone 8のディスプレイの分解の様子である。有機ELは自らが発光するため厚みを小さくできる特徴があり、従来の液晶ディスプレイはLEDで発光させる構造になっているため、その分、厚みを持ってしまう。

 iPhone Xのディスプレイ部の厚みはトータルで2mm。一方、iPhone 8は2.7mmである。このわずか0.7mmの削減が、2層基板を搭載できる余裕を生み出したのではないだろうか。

 結果としてiPhone Xの厚さは、iPhone 8に比べてわずか0.2mmの増加にとどまっている。多くのスマートフォンの厚さが8mm以下の現在、10周年モデルたるiPhone Xが8mmを超える厚さになってしまうことは許されない。

 かといって、電池容量の削減も許されない。おまけに3Dカメラを搭載できるスペースも必要だ――。わずか0.1mm単位の厚さ、面積の攻防から生まれた製品こそが、iPhone Xだったのだろう。

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