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» 2017年11月24日 11時30分 公開

この10年で起こったこと、次の10年で起こること(20):わずか0.1mm単位の攻防が生んだiPhone X (3/3)

[清水洋治(テカナリエ),EE Times Japan]
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半導体の進化を語るiPhone X

 iPhone誕生10周年を記念するモデルとして発売されたiPhone X。スマートフォンという巨大市場を生み出す起点となった初代iPhoneの中身と今回のiPhone Xを若干比較してみたい。

 図3は、初代iPhoneに使われていたメインプロセッサ「S5L8900」の様子とiPhone Xのプロセッサ「A11 BIONIC」の比較である。この10年、モバイル機器が半導体の進化をけん引してきたことを体現するかのように、著しい進化が見て取れる。

図3:初代iPhoneとiPhone Xのプロセッサを比較する(クリックで拡大) 出典:テカナリエレポート

 プロセスは90nmから10nmに進化し、単純計算になるが、同一面積に80〜100倍の回路を搭載できるものになっている。メモリ容量も桁違いに増え、動作周波数は約4倍も向上した。ビット数も増え、機能も著しく増加している。まさに、記録に残る“進化の10年”であった。

 今や、世界トップクラスの半導体チップ開発メーカーの一角にAppleが存在する。初代iPhoneはSamsungの手による汎用IP(ARMやMBX Lite)を搭載する、さほど特徴のないプロセッサであった。しかしその間にAppleはP.A. Semiの買収などを経て自らがプロセッサ開発メーカーとなり、2017年現在はトップメーカーの1社にまでなっている。

 しかも億単位の台数を販売するApple製品の中核を成すプロセッサである。仮に製造原価が1チップ当たり30米ドルとしても、1億台を販売したとなれば、30億米ドル規模の市場になる(外販すれば利益も上乗せするのでさらに大きな金額になるだろう)。こうしたチップを自らが持つことの意味は、極めて大きい。汎用チップは「帯に短し襷に長し」。Appleは自らの最大最適化を実現する道を選び、それを完全にものにした。

iPhoneが米国の半導体を強くした

 表1は初代iPhoneの主要チップサプライヤーとiPhone Xのサプライヤーをまとめたものである。携帯電話市場がメインであった2007年前後、多くの携帯電話向けチップサプライヤーはノキア、モトローラ、RIM(Research in Motion、現BlackBerry)などに向いていた。当時の主力サプライヤーはAppleを向いていなかったのである。

表1:初代iPhoneとiPhone Xのチップの主要サプライヤー(クリックで拡大) 出典:テカナリエレポート

 初代iPhoneは、韓国Samsungのプロセッサを用い、欧州系のチップでほとんどの機能を作り上げた。米国メーカーたるAppleが使った米国チップはMarvell Technology Groupくらいであった。

 あれから10年、iPhone Xでは、ほぼ7割を米国メーカーのチップで構成している。その間、欧州のメーカーは米国半導体メーカーに部門を売却したり、M&Aによって米国企業に買収されたりしている。

 初代iPhoneからiPhone Xまでの全機種のチップサプライヤーの変遷*)を見ると、iPhoneの歴史とは、“半導体の米国化”への確実な歴史であったことが明確になってくる。

*)テカナリエレポート136号に掲載

 日本のセットメーカーの衰弱が日本の半導体メーカーの再編を生んだことは間違いない。一方でAppleのような巨大プロダクトを持つメーカーは、ますます米国の半導体を強くした。

 日本にiPhoneのような巨大プロダクトがないことの問題をあらためて意識せざるを得ない。

 巨大プロダクトなき場所では、イノベーションどころか、インプルーブメントさえ起こらないのではないか……。0.1mmオーダーで攻防するような場所でこそ、エンジニアは意気も士気も上がるはずなのである。

「この10年で起こったこと、次の10年で起こること」連載バックナンバーは、こちら

筆者Profile

清水洋治(しみず ひろはる)/技術コンサルタント

 ルネサス エレクトロニクスや米国のスタートアップなど半導体メーカーにて2015年まで30年間にわたって半導体開発やマーケット活動に従事した。さまざまな応用の中で求められる半導体について、豊富な知見と経験を持っている。現在は、半導体、基板および、それらを搭載する電気製品、工業製品、装置類などの調査・解析、修復・再生などを手掛けるテカナリエの代表取締役兼上席アナリスト。テカナリエは設計コンサルタントや人材育成なども行っている。


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