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» 2017年12月22日 11時30分 公開

Over the AI ―― AIの向こう側に(18):儲からない人工知能 〜AIの費用対効果の“落とし穴” (9/9)

[江端智一,EE Times Japan]
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今回のまとめ

 それでは、今回のコラムの内容をまとめてみたいと思います。

【1】今回は、これまでのAIの歴史や技術の話を離れて、AIとお金の関係に着目してみました。具体的には、「AIブームと経済トレンドの関連」と「AIへの投資に関する費用対効果」について論じてみました。

【2】前者については現状、わが国の経済成長を支える3本の柱「工夫(イノベーションなど」「人口」「生産性」に関して、「人口」については絶望的な状態にあり、そのため、「工夫」と「生産性」に頼らざるを得ない状況にあることを示しました。

【3】「工夫」に関しては、現状、各種のイノベーション技術があるものの、その中でも、"AI技術"は、既存のコンピュータやネットワーク資源を流用できて、他のイノベーション技術と比較して、「ものすごく安くて実現しやすい」ものであると考えました。

【4】そのため、「工夫」と「生産性」を支える"AI技術"が、単なるブームを超えて、わが国の国策上、必要不可欠と考えられるに至っているという、江端仮説を紹介しました。

【5】これまでのAIブームを、景気の波およびバブル発生から崩壊までのプロセスと比較してみて、これらが非常に酷似していることを明らかにして、今回の第3次AIブームも、かつてのバブル時代と同様に崩壊に至ると予想しました。

【6】上記【4】にもかかわらず、「AIへの投資に関する費用対効果」については、政府や企業のAI技術に対する投資額を調べ、その結果、各国政府の投資額が少ないことを指摘しました。これは政府や企業が"AI技術"に対して具体的なイメージを持っていない、という、江端見解を開示しました。

【7】さらに、「AIが人間と同様の労働力を提供することが期待されている」という仮説を立てて、企業の"AI技術"の投資コストが見合っているかを、人間の値段とGDPから算出してみて、約10年での投資回収ができる、との結果を得ました。

【8】しかし、実際の江端の業務にあてはめて具体的に検討してみた結果、上記の投資回収が、全く成立しないことが分かりました。また、このような「AIへの投資に関する費用対効果」について、まともに議論されていない事実を明らかにした上で、

『AI技術に対する投資は、その技術の内容を、自分の頭できちんと理解した上で、適正な金額を、適正な期間、コンスタントに実施してほしい』

という、私(江端)からの、誠実かつ真摯(しんし)なお願いを申し上げました。



 冒頭の話に戻ります。

 私たち研究員やエンジニアは、課題やベンチマークの案出で、心底疲れ果てていますが、思い出してみると、私たちは、いつでも新しい方式や技術のフォローアップに疲れていたように思います。

 今回、このコラムを書いているさなかに、20年以上も前に残していたメモを見つけたので、それをご覧頂きつつ、お別れしたいと思います。

 では、良いお年をお迎えください。2018年もよろしくお願い致します。

江端智一

『万国の労働者よ! 停滞せよ!!』

を合言葉とした、20世紀の最後の思想(+マルクスの『共産党宣言』のパロディー)「停滞党宣言」の構想を練っております。

事の始まりは、金曜日に年休を取って研究所の先輩と尾瀬ハイクに出かけた帰り、睡魔と闘いながらの高速道路運転を敢行している最中に、このアイデアが出てきました。

江端:「要するに、コンピュータリゼーションが人類を幸福にするどころか、どんどん不幸せにしているということですよ。仕事の処理速度が2倍になったからといって、労働時間が半分になりましたか?」

先輩:「むしろ、仕事の項目は増え、さらに複雑になり、劇的な人減らしを可能としているな」

江端:「いまだかつて『システム』が人を幸せにした事例はないんですよ」

先輩:「うむ、確かに。むしろ人類としては不幸になっているともいえる」

江端:「だから、われわれは来たるべき21世紀に向けて新しいパラダイムを提唱せねばならないのです。それが、世界的規模の『進歩の停止』です」

先輩:「うむ、まさに『停滞党宣言』だな」

この後、先輩と私は、まず製造業の研究部門の完全廃止から始まり、ありとあらゆる新規市場の形成阻止に論を進めました。

政治形態としては、先日返還が決まった香港の英国による軍事再奪還、中国における毛沢東思想の復古作戦「第二次文化大革命」の構想を論じました。

加えて、ロシアの再共産化計画、バルト地区の連邦復帰計画とそれに伴って発生すると思われるNATOの反発の鎮圧と国連憲章の採択方法に至るまで、われわれは慎重に論を進め、いかにして世界を「停滞」させるかに腐心しました。


話の元は、

(1)われわれは現在の仕事に飽きている

(2)なのに日々、工程を管理され、仕事を推進させねばならぬのは苦痛だ

(3)新製品などを次々と考え出すからこういう目にあうのだ

(4)ならば、もう新製品を開発するのは止めたらどうか

(5)とはいえ、弊社だけが停滞すると単に弊社が潰れるだけだ

(6)ならば同業他社も、ええい、いっそ全世界が停滞すればよいのだ!

(7)世界の停滞。それは工程に追われる事のないパラダイス……

という事にあります。

読めば分かるように、目先の欲求(楽したいよう……)しか考えない、子供じみた動機が根底にあります。その情けない動機を隠し、いかに見た目立派な理論に育て上げるかに、われわれの力量が問われることになるでしょう


⇒「Over the AI ――AIの向こう側に」⇒連載バックナンバー



Profile

江端智一(えばた ともいち)

 日本の大手総合電機メーカーの主任研究員。1991年に入社。「サンマとサバ」を2種類のセンサーだけで判別するという電子レンジの食品自動判別アルゴリズムの発明を皮切りに、エンジン制御からネットワーク監視、無線ネットワーク、屋内GPS、鉄道システムまで幅広い分野の研究開発に携わる。

 意外な視点から繰り出される特許発明には定評が高く、特許権に関して強いこだわりを持つ。特に熾烈(しれつ)を極めた海外特許庁との戦いにおいて、審査官を交代させるまで戦い抜いて特許査定を奪取した話は、今なお伝説として「本人」が語り継いでいる。共同研究のために赴任した米国での2年間の生活では、会話の1割の単語だけを拾って残りの9割を推測し、相手の言っている内容を理解しないで会話を強行するという希少な能力を獲得し、凱旋帰国。

 私生活においては、辛辣(しんらつ)な切り口で語られるエッセイをWebサイト「こぼれネット」で発表し続け、カルト的なファンから圧倒的な支持を得ている。また週末には、LANを敷設するために自宅の庭に穴を掘り、侵入検知センサーを設置し、24時間体制のホームセキュリティシステムを構築することを趣味としている。このシステムは現在も拡張を続けており、その完成形態は「本人」も知らない。



本連載の内容は、個人の意見および見解であり、所属する組織を代表したものではありません。


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