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» 2018年01月31日 11時30分 公開

Over the AI ―― AIの向こう側に(19):未来を占う人工知能 〜人類が生み出した至宝の測定ツール (5/11)

[江端智一,EE Times Japan]

「偏差値」が作り出す、無慈悲なまでの絶対的平等な世界

 前述しましたが、「個性」だの「感性」だのという「人格主義」は、個人の主観に基づく不確かな基準であり、不公平が混る余地が満載です。

 例えば、私が1人の受験生であったとして、試験問題で、本当に運悪く数学の公式や世界史の年号だけを忘れ、その結果試験に不合格であったとしたら、私はその敗北を受け入れられると思います。運であれ実力であれ、それは私に起因するからです。

 また、私の家が貧乏で、友人と同様に予備校に通えなかったとして、それが理由で成績が上がらなかったと強弁しても(仮にそれが事実であったとしても)、それを実証する手段はなく、つまるところ社会の不公平さを嘆いて終わるでしょう。少なくとも文部科学省に「不公平な受験システム」を理由に爆弾テロを仕掛けることもないと思います。

 あるいは、体力を重視する学校で、100メートル競争のタイムが悪くて、入試に失敗したとしても、「体力差別だ!」などと叫ぶこともしないハズです。

 しかし、私が、面接などで「人格的に優れていない」と面接官に判断されたら――


私は絶対に納得しない。


 『江端という人物は、数字至上主義者であり、人間的配慮に欠ける社会的不適合者である』という面接官の主観を証拠として手に入れれば、私は、その根拠の提示と、面接試験の無効を求めて、必ず訴えを起こすでしょう。

 偏差値とは「個性や人柄などの主観的な要因、将来可能性などの未知の要因を徹底的に無視し、ただ、そのテストの中でしか見えない『学力』(と『運』)だけしか相手にしない」という血の通わない非人間性の極みにこそ価値があります。

 社会に入れば、要領の良さ、印象、清潔感、財産、所属している会社の規模、パワハラ、業務命令、根回し、怒号、泣き落し、恫喝(どうかつ)、懇願、腹芸、妥協、人脈、その他いろいろ ―― 本人の能力(成績)とほとんど関係のない事項で、世界が回っていることを、私たち大人は、嫌というほど思い知っているハズです。

 比して、偏差値の持つ「残酷なまでの公平性」は、このような「本人が持っているモノ以外の全てモノ」を削ぎ落して受験生を評価するという点において、そして、これから、社会という不条理なシステムで壊されていく前に、若者たちの最後の闘いの場において公平な判定手段を提供するという点において、守るべき価値がある道具であると信じています。

「正規分布」から逃れられない理由

 ところで、私たちが、この標準偏差における「正規分布」から、どうやっても逃げられないのはなぜでしょうか。これについては、以下の図を使って説明してみます。

 要するに、ものすごく成績の良い子どもは、7回連続でコインの表を出すことができるだけの「環境」「能力」「運」「努力」等をフルセットで持っている子どもに限定されるのです。ですから、そのような子どもの数が少なくなるのは、当然のことです。

 逆に、これらを全部持っていないという子どもが少ないのも同然です。1〜5の5段階評価で、「オール5」を取るのは難しいが、次に難しいのは「オール1」と言われます。油断していると、うっかり「2」を取ってしまう可能性があるからです。

 つまり、物事は複数の要因の組み合わせで決定し、その原因の一つ一つは、独立した確率で発生するので、私たちは結局のところ、平均値を中心とした正規分布の発生確率から逃れることができないのです。

 逆に、私たちは、この正規分布に縛られることによって、「やってみるまで分からん」ではなく「やってみなくても分かってしまう」世界で生きることができる ―― ともいえるのです。

 前述したように「製品の製造計画」「天気予報」「原発事故の確率計算のデタラメ」などの他にも、「喫煙とガンの因果関係」や「新薬の有効性」の計算にも使われます。この他、国政選挙などの「開票率0での当選確実」報道などがあります。これは、各テレビ会社の行った出口調査だけに基づく当選確実の予測ですが、ほとんどの場合、外れません(まれに外れますが)。

 これは、各テレビ会社が「ヤマカン」でやっている訳ではありません。正規分布(確率分布)に基づく「仮説検定」という方式を使って、数学的に厳密に行っているのです(ベイズの事後確率なども併用します)。

 例えば、「有効投票者数が数万の選挙区であっても、100人に意見を聞けば、信頼度90%以上で、当落を判断できる」という統計処理技術があるのです(残念ですが、紙面の問題があって、今回この話は割愛します)。

 ここまでのお話だけでもお分かり頂けるかと思いますが、こと「未来を予測する」という点に関しては、統計処理技術は、ここ20〜30年くらいに登場した強化学習やら、ニューラルネットワークなんぞ、一瞬で蹴散らせるほどの、強力な力をもつ数理解析技術なのです。

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