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» 2018年01月31日 11時30分 公開

Over the AI ―― AIの向こう側に(19):未来を占う人工知能 〜人類が生み出した至宝の測定ツール (9/11)

[江端智一,EE Times Japan]

行動経済学のアプリケーション

 しかし、上記の表の(3)の、「私益を追求しない人間は淘汰される」や「非合理な人間は少数」、というのは、かなり無理な設定だろうと思います。

 私は、たった一人の人間の振る舞いが、50人の部署の人間の帰宅時間を2時間以上も狂わせるという「事実」と「シミュレーション結果」の両方を持っています(関連記事:「上司の帰宅は最強の「残業低減策」だ 〜「働き方改革」に悩む現場から」)。

 では伝統的な経済学における、合理的人間「ホモ・エコノミカス」がどのように想定されているかを調べてみたところ ―― それはもう、ありえないほどムチャな設定でした。

 もし、あなたの友人に、ベイズの条件付き確率を暗算で計算できる人間や、未来の事象に対する全ての期待値を計算できるという人間がいたら、ぜひ私に紹介してください。インタビューに参上致します ―― 多分その人、「人間の形をしたコンピュータ」です。

 こんな合理的人間「ホモ・エコノミカス」を使って、よく伝統的な経済学はここまでがんばってきたものだなぁ、と、感心して……いや、違う、そうじゃない ―― 逆か?

 1990年代のバブル崩壊、2008年のリーマンショック、2010年の欧州債務危機。これらを、各国の政府が防ぎきれなかったのは、彼らが、経済とその構成要因たる人間の心理を読み切れなかったから ―― というのは、酷に過ぎるでしょうか。

 人間は、コンピュータどころか、しょせんは以下の内容程度のモノなのです。

 さて、人間が不合理な経済行動をする実施例(アプリケーション)は、私が調べた範囲では12通りほどあるようです。

 私の嫁さんと一緒に買い物をすれば、嫁さんが「(3)アンカリング効果」に、非常にチョロイことが分かりますし、私も、ラーメン屋の「(4)ハーディング効果」と闘うには相当の意思を必要とします。

 「(7)プロスクト理論」の問いかけを次女にしてみたところ、やはり上記の表の通りに応答しましたし、「(8)現状維持バイアス」については、わが家の長女が、学校でのクラス換えの前日に一睡もできなかったこと(参考:著者のブログ)からも、明らかです。

 また「(9)ギャンブラーの誤謬」については、前述の「平均値への回帰」の誤まった解釈であることはご理解頂けると思います。

 私は、ばくちはしませんが、仕事でプログラムバグを見つけてしまったら、その日の内にバグをたたきつぶしたい(そして、気持ちよく帰宅したい)という思いは「(10)のメンタルアカウンティング」と同じです。


 近年のパソコンの高性能化によって、膨大な数の人間オブジェクトを作れるようになりました。

 これは、従来の伝統的な経済学のような、人間の単一モデルを使った経済シミュレーションではなく、仮想世界の人間の一人一人に異なる非合理な経済行動を振る舞わせるようなシミュレーションが可能となってきていることを示しています。

 私は、ジョージ・オーウェルの「一九八四年」のような、国民全員を監視する社会はゴメンですが、シミュレーションの中の仮想世界であれば ―― 国民全員をモデル化して、それを全部監視する社会シミュレーションは、役に立つのではないかと考えています。

 経済バブルの発生と崩壊を予測し、さらにそのバブルを回避するような施策を、パソコンの中の仮想人間を使って実験し、そして、それを政府の経済政策に反映させるようになるような技術は、十分可能であると考えています。

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