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» 2018年02月19日 11時30分 公開

世界を「数字」で回してみよう(47) 働き方改革(6):政府vs企業で揺れる「副業」、労働者にメリットはあるのか (11/11)

[江端智一,EE Times Japan]
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副業・兼業は、“異種協業ビジネスのプラットフォーム”そのもの

後輩:「まず、『人口減少社会』が「戦争状態」であると認定したのは、多分、江端さんが世界で最初の一人でしょう。これは高く評価されても良いと思います。しかし……」

江端:「しかし?」

後輩:「クラウゼヴィッツの「戦争論」の引用も、良い観点かと思います。しかし……」

江端:「しかし?」

後輩:「江端さん、クラウゼヴィッツの「戦争論」*)の論旨、言えますよね」

*)パリ不戦条約とか、国連憲章第2条4項の話ではありません。

江端:「『戦争とは、国家間の紛争解決手段であり、外交の一態様である』」

後輩:「それだけじゃありません。クラウゼヴィッツは『戦争はその開始前に、戦争の勝利条件を設定しておくこと』の必要性を説いていますよね」

江端:「知っている」

後輩:「つまり、『戦争の"達成目的"を定めないと、戦争は開始できない』と、彼は言っているのです」

江端:「知っている。それで?」

後輩:「江端さんは、今回のコラムで、わが国の『人口減少社会』を『戦争状態』として、モデル化を試みた訳ですよね」

江端:「うん。それで?」

後輩:「でも、この戦争の『落し所』についての考察が、全くできていないじゃないですか」

江端:「え〜、そこまで要求するかぁ?」

後輩:「そんなに難しいこと言っていませんよ。例えば、『"日本の人口を6000万人"と想定する、経済成長幻想からの撤収戦』でも良いです」

江端:「……」

後輩:「『人生の3分の1を海外の市場で稼ぐ、"グローバル"ゲリラ戦』とか。ほら、いろいろあるでしょう」

江端:「……つまり、政府が主導している『働き方改革』とは、その実、国家総力戦を想定した『戦争基本方針綱領』であると?」

後輩:「私は何も知りませんよ。あなたが知っているんです」

江端:「……」

後輩:「あと、今回のコラムでの『副業・兼業』の観点も、凡庸(ぼんよう)ですよね」

江端:「具体的に言え」

後輩:「第1は、『本業』対『副業・兼業』を相対するモノとして把握していることです。江端さんは、今回登場したアクター*)の5人全員を、この対立/主従関係で論じていますよね」

*)システムの設計手法である"UML"で使われるシステムとの相互作用においてある役割を果たす人や組織や外部システム。

江端:「『副業』は、『本業』という対立概念なしには成立しないだろう?」

後輩:「分かっていませんね、江端さん。今や『本業』自体が、存続できるかどうかが分からない時代なんですよ。もはや本業と副業という分類自体が、意味を成さなくなるかもしれませんよ」

江端:「……」

後輩:「江端さんがこのコラムで真っ先に行うべきだった検討は、(1)この対立/主従構造が解体されていくプロセスとそのマイルストーン、(2)その後にやってくる新しいパラダイムの具体化、(3)そのパラダイムを生き抜く戦略、の3つでしょう?」

江端:「だから、要求水準が高過ぎるってば!」

後輩:「次に、第2ですが」

江端:「まだあるのか……」

後輩:「『本業』対『副業・兼業』のコスト比較ですが、ぶっちゃけ「つまらない」ですね」

江端:「コスト比較以外に、何かあるか?」

後輩:「江端さんは、確か、今『異種業種の共業を促進するシステムアーキテクチャ』の研究をやっているんですよね」

江端:「そんなかっこいいものじゃない。これまでは全く予想もできなかった2つの会社、・・そうだなぁ、例えば、『鉄道会社』と『そば屋』から、新しいビジネスを生み出すことを可能とするプラットフォーム(基盤)を考えているだけだよ」

後輩:「具体的には?」

江端:「そうだなぁ、例えば、『鉄道会社』と『そば屋』の共業ができれば、『電車の待ち時間の間に、電車の車掌さんにそばを配送する』サービスができるようになるよね」

後輩:「待ち時間のような短い時間では、車掌さんは"そば"を食べ切れないでしょう?」

江端:「うん。だから、電車の到着時刻や発車時刻を考慮した、そばの量、そば汁の温度を考慮して、Just in Timeで配送する。うまく行けば、乗客にそばを提供してもいいな。スマホで予約しておくと、車内で"そば"を配って、下車駅でどんぶりを回収するとか……」

後輩:「も……もう、十分です。でね、江端さん。ならば、どうして『それ』を書かないんですか?

江端:「はい?」

後輩:「そういう、新しいビジネスを生み出す一番てっとり早い手段は、『副業・兼業』だ、って?」

江端:「……あ」(完全に盲点だった)

後輩:「『まったく異なる業種の2つのビジネスを同時に理解している』―― これほど『異種共業ビジネス』の創成に有効に働く環境がありますか? 」

江端:「そりゃ、そうだ……。どんなに優れたビジネスプラットフォームを作ろうとも、こういう『人材』には太刀打ちできない……」

後輩:「違う! 江端さん! 発想が逆です!! 『副業・兼業』は、『異種協業ビジネスのプラットフォーム』そのものです!」

江端:「……あ」(完全に盲点だった)

後輩:「もっとも、その段階になったら『副業・兼業』という言葉はもちろん、その概念すらなくなっているかもしれませんが ―― 私たちは、2以上の仕事を持ち、そこから新しいビジネスを自ら創り出して、食っていくんです」

江端:「……それは、『誰かに雇ってもらう』という概念すらなくなっていく世界……か?」

後輩:「"釈迦に説法"を承知で申し上げますけどね、"AI"なんぞに、『人口6000万人時代』を支える力があるわけないなんてこと、誰よりも江端さんが知っていますよね*)

連載:「Over the AI ――AIの向こう側に」

江端:「つまり ―― 『副業・兼業』こそが、イノベーティブなビジネスの萌芽であり、このようなビジネスを増やし大きく育てていくことこそ、我が国の人口減少戦争を闘う最終兵器である ―― と?」

後輩:「私は何も知りませんよ。あなたが知っているんです ―― 江端先輩」


⇒「世界を「数字」で回してみよう」連載バックナンバー一覧



Profile

江端智一(えばた ともいち)

 日本の大手総合電機メーカーの主任研究員。1991年に入社。「サンマとサバ」を2種類のセンサーだけで判別するという電子レンジの食品自動判別アルゴリズムの発明を皮切りに、エンジン制御からネットワーク監視、無線ネットワーク、屋内GPS、鉄道システムまで幅広い分野の研究開発に携わる。

 意外な視点から繰り出される特許発明には定評が高く、特許権に関して強いこだわりを持つ。特に熾烈(しれつ)を極めた海外特許庁との戦いにおいて、審査官を交代させるまで戦い抜いて特許査定を奪取した話は、今なお伝説として「本人」が語り継いでいる。共同研究のために赴任した米国での2年間の生活では、会話の1割の単語だけを拾って残りの9割を推測し、相手の言っている内容を理解しないで会話を強行するという希少な能力を獲得し、凱旋帰国。

 私生活においては、辛辣(しんらつ)な切り口で語られるエッセイをWebサイト「こぼれネット」で発表し続け、カルト的なファンから圧倒的な支持を得ている。また週末には、LANを敷設するために自宅の庭に穴を掘り、侵入検知センサーを設置し、24時間体制のホームセキュリティシステムを構築することを趣味としている。このシステムは現在も拡張を続けており、その完成形態は「本人」も知らない。



本連載の内容は、個人の意見および見解であり、所属する組織を代表したものではありません。


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