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中国勢の台頭と有機ELの行方、ディスプレイ業界の未来ディスプレイ業界を望む 2018(1)(1/3 ページ)

EE Times Japanでは、ディスプレイ業界の現状を振り返り将来を見通すべく、市場調査会社IHS Markitのアナリストにインタビューを行い、複数回にわたってその内容をお届けしている。第1回は、ディスプレイ産業領域を包括的に担当する同社シニアディレクターのDavid Hsieh氏より、大型/中小型液晶と有機ELの現状と未来を聞く。

» 2018年06月20日 11時30分 公開
[松本貴志EE Times Japan]

 2017年のディスプレイ業界は、ダイナミックな市場の動きがある1年だった。「iPhone X」の有機ELディスプレイ採用を筆頭として、京東方科技集団(BOE)の10.5世代工場稼働開始に代表される中国パネルメーカーの大規模投資、そしてこの動きに関連して液晶パネルの価格競争はさらなる激戦となった。

 EE Times Japanでは、ディスプレイ業界の現状を振り返り将来を見通すべく、市場調査会社IHS Markitのアナリストにインタビューし、今後数回にわたってその内容をお届けしていく。

 第1回は、ディスプレイ産業領域を包括的に担当する同社シニアディレクターのDavid Hsieh氏より、業界のビジネストレンドと、大型/中小型液晶や有機ELディスプレイについて現状と未来を聞く。

供給過剰なディスプレイ市場、しかし設備投資は止まらない

EE Times Japan(以下、EETJ) ディスプレイ業界は現在、どのようなビジネストレンドにありますか。

David Hsieh氏

David Hsieh氏 業界の関心は、中国パネルメーカーが行う設備投資の方向性に最も注がれている。中国メーカーは、従来より続く液晶への投資だけでなく、有機ELに対する投資も始めた。

 この動きは、業界の材料メーカー、そして装置メーカーが中国市場をより重視する戦略の後押しとなる。日本の部材メーカーについてもビジネスチャンスとなるだろう。

日本、中国、台湾、韓国における大型パネル出荷比率の推移(クリックで拡大)IHS MarkitのデータよりEE Times Japanが作成

 もう1つの注目すべきトレンドは、有機ELの進化だ。特にフレキシブルディスプレイへの応用など、従来のディスプレイから概念を置き換えるテクノロジーに関心が集まっている。これに加え、有機ELは液晶と比較して色再現性や薄型化の面でも優れているが、まだコストが高い。有機ELのコスト低減がどこまで進むか、液晶とどのように戦っていくかが興味深い。

EETJ 中国メーカーの設備投資は続きますか。

Hsieh氏 IHS Markitでは、中国メーカーが2018年のグローバルシェアで約40%を占めると予測しており、2024年にはさらにシェアを拡大し約55%となる見込みだ。また、中国政府が補助金をパネルメーカーに供出し、液晶パネルの生産キャパシティーを引き上げる動きがある。中国国内からの強いディスプレイ需要が継続すると見ているためだろう。

 一方、韓国メーカーに目を移すと、有機ELに投資の軸足を移している。有機ELディスプレイの生産数を拡大することや、コストダウンへの取り組みに注力しており、勢いのある中国メーカーに有機ELで戦いを挑んでいるかのように見える。

EETJ 液晶ディスプレイ市場はオーバーサプライであるとの見方が広がっていますが、各国のメーカーはどのように対処していくと思われますか。

Hsieh氏 最もアグレッシブに設備投資を行っているプレーヤーは、中国メーカーであることに間違いない。Foxconn・シャープ連合も新工場を建設し、LG Displayも新たな生産設備を構築するなど、2018〜2020年の3年間でグローバルの生産キャパシティーは年間約10%ペースで成長するだろう。しかし、近年より供給過剰問題が指摘されていたが、いよいよ問題が表面化しており、液晶テレビのパネル価格は2017年後半から現在まで下落傾向にある。

 供給過剰問題に対して各メーカーが取りうるシナリオとしては、旧世代の工場を閉鎖することや、発表済みの新規設備投資を後ろ倒し、もしくはキャンセルすることも考えられる。パネル面積ベースで考えると需要成長率も伸びてきてはいるが、ほとんどのパネルメーカーは2018年第2四半期から赤字になるとみられ、厳しい状況が続くだろう。一方で、川上の部材メーカーでは特需が発生する可能性がある。

 スマートフォンなどに用いられる中小型有機ELディスプレイも供給過多な状況で、その最も大きな要因は高コストで需要が喚起しづらいことだ。液晶と比較して、有機ELは2倍程度のコスト差があるため、エンドユーザーに対して有機ELのコストに見合う価値をうまく訴求できなければ売れない。この問題を解決するため、メーカーはエンドユーザーのニーズを調査し、原価低減と新しい付加価値の創出に取り組むべきだ。

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