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九大、励起子生成効率が100%以上のOLED開発高強度近赤外OLEDを実現可能に

九州大学の研究グループは2018年7月、励起子生成効率を100%以上に高めることができる有機EL素子の開発に成功したと発表した。

» 2018年07月10日 13時30分 公開
[馬本隆綱EE Times Japan]

 九州大学最先端有機光エレクトロニクス研究センターの中野谷一准教授、永田亮工学府博士課程学生、安達千波矢センター長らの研究グループは2018年7月、励起子生成効率を100%以上に高めることができる有機EL素子(OLED:Organic Light Emitting Diode)の開発に成功したと発表した。センサーや通信用の光源に用いるOLEDの高輝度、高強度化が可能となる。

 OLEDは、電荷再結合によって生成される励起子のエネルギーを発光として利用する。励起子はスピン多重度の違いにより、「一重項励起子」と「三重項励起子」が存在し、OLEDはこれらが1対3の割合で生成されるという。生成された励起子の中で、EL発光として利用できる割合を励起子生成効率と呼ぶ。これまでの研究で、ほぼ100%の励起子生成効率が達成され、理論限界値とみられてきた。

「一重項励起子開裂」過程に着目

 研究グループは今回、この理論限界値を突破するため、1つの一重項励起子が基底状態にある分子と相互作用することで、2つの三重項励起子が生成される「一重項励起子開裂(singlet fission)」過程に着目した。有機光電変換素子の研究ではこの電子遷移過程を利用して、既に100%を超える光電変換量子効率を実現している。しかし、OLEDでの研究例はこれまでほとんどないという。

 今回の研究では、ルブレン分子をホスト材料に、エルビウム錯体を発光ドーパントとしたOLEDを用い、一重項励起子開裂を経由して生成された三重項励起子を、エルビウム錯体からの近赤外EL発光として利用できることを初めて実証したという。

一重項励起子開裂を示す分子をホスト材料に用いた新発光メカニズム 出典:九州大学

 一重項励起子開裂が発生しない有機分子を用いた試料との比較を行った。近赤外発光強度がより増強されることや、近赤外強度の磁場応答性などの解析結果から、ルブレン分子を用いた試料では、励起子生成効率が光励起の場合に108.5%、電流励起の場合でも100.8%に達するなど、100%以上に高められることが分かった。

今回の研究で得られたOLED特性とELスペクトルおよび、EL強度の磁場依存性 出典:九州大学

 今回の研究成果により、センサーや通信用の光源などに用いられる近赤外OLEDの高輝度や高強度化を実現することが可能になる。現状では近赤外発光色素自体の発光効率が極めて低いため、十分な発光強度は得られていないという。研究グループでは、励起子生成効率と内部EL量子効率が200%となるOLEDの研究と実用化を目指す考えである。

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