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情報社会の大いなる“裏方”、光伝送技術光伝送技術を知る(1)(2/3 ページ)

» 2018年07月11日 11時30分 公開
[高井厚志EE Times Japan]

空間光通信

 光通信の起源は大変興味深く、のろしや手旗信号を光通信の始まりとする説もある。金属や鏡で太陽や月の光を反射し、光線を受信者に向け、その光路を遮ってモールス信号のような情報を伝えることも行われた。光は直進するので、遮るものがなければ数キロ先まで情報を伝えることができた。

 近代で有名なのは、1880年に実験を行ったグラハム・ベル(Alexander Graham Bell)のフォトフォン(Photo-Phone)である。太陽光を当てた鏡を音声で振動させ、離れたパラボラミラーで集光し、セレン素子に当てて音声を再生するという仕組みで、213mの伝送に成功したといわれている。

 類似の伝送方式は現在でも使われていて、「空間光通信」と呼ばれている。空間光通信は、ケーブルなどの敷設工事が不要という長所があり、さまざまな方式が検討されてきた。身近な例では、スマートフォンやPCネットワークで使われる、赤外光を利用した無線通信「IrDA(Infrared Data Association)」がある。

 最近では、宇宙衛星が撮った画像データなどを伝送するために、高速、大容量伝送が可能なレーザービーム光を用いた衛星光通信の実証実験が進められている。レーザービーム光は広がりを抑えることができるため秘匿性が高く、干渉もない上に、無線周波数の割り当ての国際間調整などが不要というメリットがある。ただし、ビームで衛星を追尾するという高度な技術が必要になる。

 電流で光強度を変調することが可能なLEDライトを用いた、照明光通信の実用化に向けた研究開発も活発化している。交通信号のLED化が進められているので、LEDを利用して歩行者や車に情報を提供することも検討されている。その他、ダイバーや海底観測の機器などとLEDを用いた水中通信を行うことにも注目されている。

図2:宇宙光通信が創る高速宇宙通信ネットワーク(JAXAのWebサイトより引用

地球を覆う光ファイバー通信ネットワーク

 空間伝送では、山などの地理的条件によって伝送距離に制限があり、雨などの気象条件や鳥が光路を遮るなどで障害が生じることがある。これに対し、ケーブルに光を閉じ込めることで安定した光伝送を実現した光ファイバーの実用化によって、情報通信は飛躍的に発展した。

 では、光ファイバーの市場規模はどのくらいなのだろうか。2016年には、約3.5億kmの光ファイバーケーブルが出荷された。近年は中国向けが急激に増加し、約半分が中国需要である。

 光ファイバーの製造は、1970年、米Corning(コーニング)が開始したのが最初である。Corningは2017年、これまでに出荷した光ファイバーが累計10億kmに達した発表した(参考資料)。10億kmは、地球の公転軌道距離とほぼ同等の長さである。どれだけ膨大な量の光ファイバーが製造され、出荷されているのかが分かるだろう。

光ケーブルの一例 出典:Corning

 地球上を覆うように張り巡らされ、通信ネットワークを形成している光ファイバーであるが、これらは主に、地球上に豊富に存在する石英を材料とする石英ガラス光ファイバーだ。この光ファイバーは光の通り道である直径約9μmの「コア」を有するシングルモード光ファイバー(SMF: Single Mode Fiber)である。

 シングルモード光ファイバーは光損失が小さいことと、高速、大容量伝送が可能なことが最大の特長である。近年は1.5μm帯の光において損失0.16dB/km以下の光ファイバーが量産されている。18km先で光が半減するという低損失を実現している。さらに、シングルモード光ファイバーでは100Tビット/秒(bps)の伝送が可能とされており長距離通信に適した伝送媒体である。

 ガラスや樹脂で構成される光ファイバーは細くて軽いという特長もある。石英ガラス光ファイバーは、中心を通る「コア」と、コアを覆う「クラッド」(ガラス)で構成されていて、直径は125μmと、髪の毛と同じくらいだ。この光ファイバーに樹脂をコーティングして補強したものを「素線」と呼ぶ。直径は250μmである。Corningによると100kmの素線を巻いたボビンは直径30cm、高さ22cmで、重さが8.3kg。手で抱えられる大きさ、重さだ(参考文献)。

 ケーブルは、実際には使用目的に合わせたケーブル化を行ってから、使用される。ケーブル化技術自体も発展し、2017年には、データセンター用に3756本の光ファイバーを収納した外径35mmのケーブルが発表されている

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