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» 2018年07月13日 10時30分 公開

熱電能の増強効果を確認:電子を閉じ込めて性能が2倍、熱電材料の新理論を実証

京都大学の田中功教授らによる共同研究グループは、電子を狭い空間に閉じ込めることで、熱電材料の性能が約2倍に高まることを実証した。廃熱を効率よく変換し、再資源化できる技術として注目される。

[馬本隆綱,EE Times Japan]

次世代クリーンエネルギー技術として注目

 京都大学の田中功教授らによる共同研究グループは、電子を狭い空間に閉じ込めることで、熱電材料の性能が約2倍に高まることを実証したと発表した。

 今回の研究成果は、京都大学大学院工学研究科の田中功教授や北海道大学大学院情報科学研究科の張雨橋博士後期課程学生、同大学電子科学研究所の太田裕道教授、東京大学大学院工学系研究科総合研究機構の幾原雄一教授と台湾・国立交通大学のYu-Miin Sheu助教らによるものである。

 熱電材料は、自動車や工場などから排出される廃熱を、電気に変換し有効利用できることから、次世代のクリーンエネルギー技術として注目されている。熱電変換の効率を高めるための研究も進んでいる。1993年にはマサチューセッツ工科大学のドレッセルハウス教授らが効率改善に向けた理論を発表した。この理論は2007年に実証されたが、人工超格子全体では十分な変換性能が得られなかったという。

ドレッセルハウス教授らが提案する理論を実証するために用いられた「電気を通さない層で、電気を通す極薄層を閉じ込めた人工超格子」の概要 出典:京都大学

 共同研究グループは今回、2016年に東北大学の齋藤理一郎教授とドレッセルハウス教授らが新たに提唱した、「大きく広がった電子を狭い空間に閉じ込めることで,より大きな熱電能増強が起こる」という理論について、その実証を行った。

齋藤教授とドレッセルハウス教授らが新たに提案した理論の模式図 出典:京都大学

 実証実験では、電子の広がりを波の波長(ド・ブロイ波長)によって規格化した。まず、電子がたまった厚み0.4〜5nmの極薄層を用意。従来よりも大きく広がったこの極薄層を、厚みが約4nmの絶縁体で挟み込んだ構造(人工超格子)とし、大きく広がった電子を狭い空間に閉じ込めた。

 ここで極薄層の材料として、チタン酸ストロンチウムにニオブを加えた物質を用いた。チタン酸ストロンチウムとニオブ酸ストロンチウムの間には、SrTi1-xNbxO3固溶体(0≦x≦1)の薄膜が形成され、そのド・ブロイ波長を計測した。この結果、x≦0.3では従来と同じ4.1nmであった一方で、x≧0.4では5.3nmとなり約30%広がることが分かった。

 次に、電気を流す極薄層としてx=0.2、0.3、0.8のSrTi1-xNbxO3固溶体を用い、これを厚み約4nmの電気が流れないSrTiO3層で挟み込んだ人工超格子を作製し、熱電能増強度合いを計測した。

 測定結果では、電気を通す層の厚みが減少すると熱電能が増大した。x≦0.3(A領域と定義)の人工超格子では、従来と同じくバルクに比べて熱電能は4〜5倍となる。これに対しx≧0.4(B領域と定義)の人工超格子は、熱電能増強度合いが10倍となった。

上図は電気を通す層のド・ブロイ波長、下図は人工超格子の熱電能の増強度合いを示すグラフ 出典:京都大学

 さらに、電気を流す極薄層の厚みを0.4nm(1単位格子)に固定して、導電率と熱電能を計測した。この結果、人工超格子の誘電率は電子キャリア濃度にほぼ正比例で変化した。人工超格子の熱電能は、バルクに比べて急な傾き(約300μVK-1)で電子キャリア濃度が変化することが分かった。

 これらのデータを用い、熱電出力因子(熱電能×熱電能×導電率)を算出した。この結果から、x=0.6の人工超格子が,これまでの約2倍となる5.5mW/mK2の熱電変換出力を示すことを発見した。これらの実験データから、齋藤教授とドレッセルハウス教授らが提案した理論は正しいことを証明した。

人工超格子とバルクのSrTi1-xNbxO3固溶体における電子キャリア濃度依存性。上部左が導電率、上部右は熱電能、下部は熱電出力因子 出典:京都大学

 共同研究グループは今回の研究成果について、「熱電材料を高性能化するための有力な材料設計指針になる」とみており、工場や火力発電所、自動車、コンピュータなどから排出される熱の再資源化に期待する。

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