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» 2018年08月09日 10時30分 公開

30年の粘りが生んだ:マルチコアCPUの“真価”を引き出す自動並列化ソフト (3/4)

[村尾麻悠子,EE Times Japan]

自動車のECU周りでマルチコア化が進む

 オスカーテクノロジーがまずターゲットとしているのが、自動車市場だ。具体的にはECU(電子制御ユニット)周りである。小野氏は「2020年以降の排ガス規制や燃費規制に対応するためには、より緻密な制御が必要になる。そのため、ECU周りにもシングルコアではなくマルチコアが必要になるのではないかとみている」と述べる。

 エンジンの制御をより緻密に行うためには、CPUのパワーが必要だ。そのためには、クロック周波数を上げるのが一般的だが、過酷なことも多いクルマの環境においては、あまり高い動作周波数は使えない。そこで、マルチコア化が必要になると考えられるのだ。

 早稲田大学の笠原研究室は、トヨタ自動車、デンソー、ルネサス エレクトロニクスと共同で、マルチコアのECUによるエンジン制御に関する研究を行った。実は、トヨタ自動車らが逐次型ソフトウェアをエンジニアによって並列化させたみたところ、2コアで1倍以上も高速化できないという結果を得ていた。それくらい、難しいのである。それを、(OSCARTechコンパイラの前身となる)研究用のコンパイラで試したところ、1.95倍にまで高速化することができたという。

 ただ、この研究用コンパイラは、あくまで学術論文を書くためのものだった。「つまり、“自動車向けの製品”としては、使い勝手などを含め、クオリティーが十分ではなかった。そのため、論文用に開発したコンパイラを製品化できるレベルにまで引き上げることが、オスカーテクノロジーの役目だった」(小野氏)

 こうして2014年に、オスカーテクノロジーとデンソーによる共同開発が新たにスタートした。オスカーテクノロジーはこれまで、デンソーから2回にわたり総額3億2500万円の出資を受けている。デンソーは、オスカーテクノロジーの株主でもある。ちなみに、オスカーテクノロジーの株式は、デンソーが2割、早稲田大学系のベンチャーキャピタルであるウエルインベストメントが2割、小野氏が2割、そして早稲田大学と産業革新機構が1割ずつ保有している。「デンソーがユーザーの立場で出資しているということは、われわれの技術を信頼してくれていることの証だと考えている。さらに、産業革新機構からの出資も本格的に始まった。正直、苦しい時期が続いているが、OSCARTechコンパイラの技術に高い期待を寄せていただいていると確信している」(小野氏)

OSCARTechコンパイラは、V字プロセスやモデルベース開発の中で適用することができる 出典:オスカーテクノロジー(クリックで拡大)

 小野氏は、ソフトウェア並列化に最も積極的に取り組もうとしているのが、自動車業界だと述べる。ロボティクスなどの業界は、自動車業界の“様子見”をしている可能性があるという。「2013年にオスカーテクノロジーを立ち上げた時よりも、ソフトウェアの並列化に対するニーズは緩やかになっているのではないかと感じる。チップの速度にまだ余裕があり、それほど必要性を感じていない業界も多いのかもしれない。ただし、当社のパートナー企業の目の色は変わってきているので、ある時点を境に、急激に並列化のニーズが高くなる可能性はある」(小野氏)

 現在、ArmやdSPACE、IAR Systemsなどがオスカーテクノロジーのパートナー企業になっている。

 Armについては、クラスタアーキテクチャ「DynamIQ」や、大型CPUコアと小型CPUコアを組み合わせる「big.LITTLE」構成に対応した自動並列化ツールを開発する。小野氏は、あくまで個人的な見解として、「きちんと対応できる並列化ツールがないので、Armが意図している通りにbig.LITTLE構成を使いこなせているユーザーは、いないのではないか」との疑問を投げかけている。

 dSPACEについては、ECUのソフトウェアを検証するためのプラットフォーム「VEOS」上で動作するシミュレーションソフトウェアを、OSCARTechコンパイラで並列化し、高速に動作することが目的だ。

 IAR Systemsについては、同社の統合開発環境である「Embedded Workbench(EWB)」に、OSCARTechコンパイラを組み込むことを考えている。

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